「ボーン・グローバル企業」で求められる経験とは? ボーン・グローバル企業の説明から、具体的な企業、必要な経験を解説

○「ボーン・グローバル企業」とは?

近年、ボーン・グローバルと呼ばれる、創業初期から急速に世界展開をするベンチャー企業が注目されている。創業当初からグローバル進出を前提としたビジネスをスタート。創業後、1か月から2年程度で海外事業を展開し、そこから急速に事業を拡張していくような企業だ。

○ボーン・グローバル企業登場の背景

ボーン・グローバル企業は、従来までの漸進的な国際化とは一線を画す。これまでの企業では、長期間の国内事業の後、国際貿易(輸出)や技術供与の段階を経て、最後に海外直接投資(現地生産や現地での R&D)に向かうといった「まずは国内、後から海外」というケースが多かった。一方、ボーン・グローバル企業では、起業時からすぐさま1カ国ないし多数の海外市場に参入。国際合弁会社を形成するなど、「いきなり海外」というアグレッシブなグローバル展開が特徴だ。

こうした新しい形の国際企業が出現している理由として、市場のグローバル化やIT化が挙げられる。21世紀になり、インターネットなどの情報通信・メディアの発展や移動手段の進化により、取引先相手の探索、契約、管理のコストが劇的に低下した。国際的なアウトソーシングサービスの成長も重なり、小さな企業であっても世界中の市場と取引する体制を整えることが容易になったのだ。

また、国内市場の今後の見通しへの不安感も大きい。ボーン・グローバル企業はもともと、内需があまり見込めない北欧企業などに多く存在してきた(フィンランドのノキアなど)。これらの企業は、国内市場の売上だけでは会社が存続できず、世界に目が向けられることは必然であった。一方、日本では従来、内需に一定の規模が見込めるため、海外展開の必要に駆られる場面は少なかった。しかし、昨今の少子高齢化による人口減少などを背景に、日本市場への限界が表面化し、海外に活路を求める必要が出てきたのである。また、それまで国内事業に専念してきた歴史ある日系企業が方向転換し、海外展開し、急激に成長した「ボーン・アゲイン・グローバル企業」と呼ばれる企業群もある。いずれにせよ、人口減少による市場の将来的な縮小という危機感に迫られ、世界に飛び立っていく企業が日本から多く出て来ていることは注目に値する。

○ボーン・グローバル企業の強み

ボーン・グローバル企業の特徴は、カスタマイズされた製品の開発よりも、グローバルなニッチ市場における、生産とマーケティングの標準化能力の高さにある。慶應義塾大学琴坂将広准教授によれば、グローバリゼーションが進行した現代は「世界的な価値連鎖」を最大限に活用する時代だという。自社工場を持たず、社員数5名程度でも国際的なオペレーションが構築できるのが現代社会だ。この時代においては、機動力に優れた「小さなグローバル企業」が活躍できる。かつてはボーン・グローバル企業の多くが技術系のものづくり企業で、世界的に競争力のある部品を世界中の完成品メーカーに輸出していた。今ではボーン・グローバル企業の範囲は広がり、インターネットサービスを始めとして、ファッションや情報機器などの分野にも広がっている。

○ボーン・グローバル企業の注意点

ボーン・グローバル企業が陥りやすい罠として、「ハイテク・ボーン・グローバル企業の罠」というのがある。これは特にテックドリブンなスタートアップで起こりやすい。技術志向でサービスの開発を進めるも、対象となる海外市場が急速に推移した結果、柔軟な技術戦略の変更ができず、製品が市場に受け入れられなくなるというものだ。この失敗を避けるためにも、海外市場に対しては、技術志向ではなく市場志向が重要であると言われる。自社のコア技術にこだわらず、市場に合わせた製品が成功の鍵となる。

○日本のボーン・グローバル企業

日本においても、創業初期からアメリカにオフィスを構えたメルカリをはじめ、ボーン・グローバル企業として創業する企業が増えてきている。かつてのソニーやホンダも、国内で大きく成長し、成功を収める前の段階から海外に積極的に進出していったように、日本発のボーン・グローバル企業はこれからも多く出てくるポテンシャルがあるといえるだろう。
以下で、日本における代表的なボーン・グローバル企業を、①ウェブサービス、②メーカー、③大学発ベンチャーというカテゴリーで紹介する。

○ウェブサービス

・マネーツリー株式会社
2013年より国内で個人資産管理・家計簿アプリ「Moneytree」をローンチしているFintechベンチャー。2年連続のApp storeでのbestアプリ、日本三大メガバンクから出資を受けるなど、国内で順調に成長し、2017年にオーストラリア市場への進出を果たした。創業CEOであるPaul Chapman氏をはじめ、ファウンダー3人は全員外国人。現在も社員の半分以上が外国人だが、日本初のスタートアップで本社も日本にある。まだまだ現金社会である日本で、将来的に長く使われるサービスを目指している。社内ハッカソンなどで、日本人と外国人の交流と学び合いが定期的に図られている。

・モビンギ株式会社
企業向けにアプリケーションをクラウド管理するプラットフォームサービス(PaaS)を提供している。創業者のWayland Zhang(張卓)氏は、カナダや中国で数社起業し成功させた連続起業家。日本人の妻の要望で東京に来日し2ヶ月、「日本語が全く話せなくて、普通の仕事に就くことは難しいから」との理由で、日本語も話せないまま日本人の共同創業者を見つけて始動したスタートアップだ。モビンギの法人登記は日本で、チームメンバーも日本人が多いが、米国のベンチャーキャピタルから出資を受けたこともあり本社を一時米国に移転したこともある。

・株式会社メルカリ
フリマアプリ「メルカリ」は2013年サービス開始以来、5年間で7100万DL、月間ユーザー数1000万人を突破した。出品数も100億を突破し、2018年6月にはマザーズ上場、上場時の時価総額は3516億円にも到達した。海外展開としては、米英に進出し、今後も欧州を中心に事業を展開する予定。「メルカリ」の他にも、決済サービス「メルペイ」、投資ファンド「メルカリファンド」など、多角的に事業を展開している。

・株式会社メタップス
2007年9月創業、2015年マザーズ上場。アプリ収益化プラットフォーム「metaps」を展開。自分の時間を売り買いできるサービス「タイムバンク」は堀江貴文氏や落合陽一氏など、多くの有名人が登録し話題を呼んだ。海外展開の仕方に特徴があり、世界に8拠点を持つが、現地のオフィスは主に現地人に任せるという運営をしている。日本人を送るのではなく、現地の人にやらせた方が、現地のことをよく知っているため、より効率よくローカライズができるためだ。ほかにもスマホ送金アプリ「pring(プリン)」はメガバンク3行との提携に成功し、金融業界に衝撃をもたらした。

○メーカー

・Terra Group
日本で初めての文字通りのボーン・グローバル企業として名高いテラモーターズは、アジアで電動バイク事業を展開している。創業者である徳重徹氏の、国内市場はいずれ縮小するため、成長するアジア市場を日本の国内需要とみなすほどの意識が必要であるという考え方を元に、創業まもなくベトナム・インド・バングラデシュの(工場含む)3拠点同時立ち上げを実行した。6~7年かけて電動バイク事業を軌道に乗せた後、次なるフロンティアとしてテラドローンを創業し、ドローン事業に邁進。徳重氏自ら、国内事業とオーストラリア事業を同時に進めている。

・株式会社MUJIN
「すべての人に産業用ロボットを」というコンセプトの下、工場などで用いられる産業ロボットに指令を出すコントローラーを提供している。物流やFA向けにサービスを展開。高い技術力を持ち、システムの生産性の向上に大きく寄与している。

○大学発ベンチャー

・GLM株式会社
京都大学発のEV(電動自動車)スポーツメーカーGLMは、世界的なガソリンカーからEVへのシフトを受けて、 EVのプラットフォーム(車台)開発に注力している。世界最大の市場である中国からの引き合いも強く、2017年に香港の投資会社から資本調達するなど、開発拠点は京都ながら、中国をターゲットにした事業を展開している。

・Spiber株式会社
2007年9月創業の慶応大発ベンチャー。世界で初めてクモの糸を使った新たなバイオ素材の開発に成功。そのユニークさから全世界から注目を集めている。従来、人工タンパク質の合成には非常にコストがかかった。それを蜘蛛の糸を使うことでコスト削減を実現。強度は鋼鉄の340倍。さらに石油を原料としないため、環境への影響も少ない。アパレルメーカー・ゴールドウィンと共同でアウタージャケットのプロトタイプの開発に成功。ほかにもLEXUSの背面シートに起用された例もあり、多方面で活用が期待されている。

○ボーン・グローバル企業で求められる人材

では、それぞれのカテゴリーごとにどのような人材が求められているのだろうか。メルカリの例でいえば、創業者CEOの山田進太郎氏は、米国でスタートアップ経験のある石塚亮氏を創業メンバーに加えている。全体的にビジネスサイドの人材は、海外経験や語学力といった、グローバルな力が求められる傾向にあることは言うまでもない。分野によって、エンジニアや研究開発の人材に違いがみられるため、その部分に関して解説していく。

・ウェブサービス
ウェブサービスの場合、UI/UXを担当するデザイナーや、サービスを広げるためのマーケターが重要になる。とくにボーン・グローバル企業では、国によってデザインや広告の打ち出し方がことなるため、進出先の国に詳しい人材や、実際に現地の人材を用いる場合がある。エンジニアにおいては、ビジネス職ほど英語力を求められないことが多い。とはいえ、管理職クラスになると現地のエンジニアをまとめあげるコミュニケーションスキルと語学力も必要とされるため、避けては通れない。

・メーカー
事業内容として製造しているハードウェアについて詳しい人材はもちろん、ハードウェアに対してソフトウェアを組み込むことのできる組み込みエンジニアや、ソフトウェアの基となるアルゴリズムエンジニアも重宝される。ハードウェア・ソフトウェアどちらでも詳しい人材は活躍の機会があるだろう。エンジニア研究開発、また製造においても語学は必要だが、技術ベースでコミュニケーションが進む側面もある。かつてのアメリカ・ホンダでは、日本人と米国人のエンジニアが言葉抜きで製造品のみで会話していたという。一方、ビジネスサイドは語学力が必須で、英語力はマストだ。CEOがアカデミック出身ないし技術者出身の場合、ビジネスサイドを管轄できる右腕が必要とされるケースも多い。

・大学発ベンチャー
研究開発においては、アカデミック経験のある人材が求められている。大学発ベンチャーであるだけに、創業者がアカデミック出身であることがほとんどのため、ビジネスやファイナンスについての経験・知識が豊富な人材が求められる。アカデミック出身者とともに仕事をする機会が多いため、営業やマーケターなどビジネスサイドの人材でも、事業内容について多少なりとも知識があることが望ましい。

〇厳選企業

・株式会社ユーザベース