"「フィンテック」業界で求められる経験とは? フィンテック業界の説明から、具体的な企業、必要な経験を解説"

○なぜこんなにも「フィンテック」が注目されるのか

近年なにかと耳にする「フィンテック」。いったいなぜこんなにも注目を浴びているのだろうか。国内フィンテックの市場規模は、2015年度には48億8500万円、2021年には16.5倍の808億円に達するとの見込みだ(矢野経済研究所調べ)。これほどまでの大きな成長の背景には、以下の3つの要因が隠されている。

・既存の金融業界に潜む「不便」さ
今までの金融システムでは「不便」が多かった。お金を降ろすにも銀行にわざわざ行かなければならない。近年はATMができたが、ATMのある所に行かなければお金を降ろせないし、送金の際にも手数料がかかり、時間の縛りも存在する。特に海外に送金するとなると、その費用や手間は相当なものになる。また金融機関側も、日々の業務や手続きにかける労働時間・人件費は馬鹿にならない。こうした金銭的・時間的手間に対する不便さは、逆に言えば大きなビジネスチャンスともなりうる。これらを背景に、最近決済サービスや送金サービスが注目を浴びている。

・リーマンショックの影響
上記の潜在的な要因のほか、フィンテックの爆発的な発展の直接の引き金となったのは、2008年秋に起こったリーマンショックだ。このリーマンショックによって、大きな二つの影響が生じた。一つは、優秀な金融関連の人材が大量に解雇され、外部へ流出したこと。こうした人材の就職先は、当時(今もそうだが)成長軌道に乗っていたIT企業であった。金融に詳しい人材が、IT技術を持つ会社と化学反応を起こし、誕生した新たなフィンテック企業はアメリカだけで100社以上にものぼる。

・ICT技術の急速な発達
こうしたサービスを形にするには、ICT技術の発展が不可欠だ。近年のICT技術の発展には目を見張るものがあり、特にAIやブロックチェーンといった分野は、多くのフィンテックサービスに利用されている。フィンテックサービス拡大の背景には、3つの要因が考えられる。
1つ目は優れたUI/UXを持つ、身近で便利なサービスが続々と誕生したことだ。するとユーザーも、こうしたサービスを求める風潮がより高まる。それが金融に対する「不便さ」と相まって、多くのサービスを誕生させるに至ったと考えられる。
2つ目はデジタルネイティブの世代と言われるように、人々のITリテラシーが高まったことも大きな要因の一つだろう。新たなITサービスを生み出しても、すぐに活用できるだけのリテラシーが人々の間に広まり、抵抗感も低くなっていることが、サービス拡大に大きな影響をしていることは間違いない。
3つ目はスマートフォンの普及だ。今やPCに勝るとも劣らないスペックの端末を、一人1台持っているという状況である。高度なITサービスをローンチし、それが広まり活用できるインフラが整っているということは、フィンテックサービスの急速な普及に多大な貢献をしていると考えられる。

○日本におけるフィンテック

欧州では2013年頃にはすでに「フィンテック」という言葉への注目度は上がっていた。それが日本に入るのは2015年以降のことである。2014年頃、金融業界では決済の簡略化を目指す動きが始まっていた。その中で、金融業界内の課題が浮き彫りになった。日本の金融業界のITへの対応が、安全・安定を求めすぎるあまり保守的になりすぎていたことが浮き彫りになったのだ。社会全体がITへ柔軟に対応し、情報化社会になっていくなかで、金融業界だけが取り残されてしまうのではないか。こうした不安から「フィンテック」という言葉が登場し、現在のような状況になっていった。

・日本のフィンテック業界における課題
日本で大きく普及し、成長規模を伸ばしつつあるフィンテック業界だが、欧米諸国と比べてみると、その経済規模や投資額はまだまだと言わざるを得ない。
アクセンチュアによると、日本におけるフィンテック投資額は65百万ドル、2014年のGDPは4,605十億ドルだったのに対し、アメリカでは投資額は日本の約200倍の12,212百万ドル、GDPは17,348十億ドルにものぼる。英国でも投資額は日本の15倍近い974百万ドルと、大きく差が開いている。

こうした現象の背景には、様々な要因が考えられる。まず、日本の既存の金融機関への信頼度の高さがある。アメリカは国土が広いこともありATMが近くにないということや、窓口での対応が粗雑ということも見受けられるのに対し、日本では銀行に対する信用度が高く、ATMの利便性も高い。また、新しいIT技術への抵抗感も挙げられる。電子化によって個人情報流出のニュースなどを聞くと、やはり情報保護の観点から、ためらいが生まれてしまうのも無理はなかろう。また、内閣府によると、民間消費支出におけるキャッシュレス決済の割合は、韓国や中国では半分以上なのに比べ、日本ではわずか2割にとどまっている。こうした現金主義という風潮も、フィンテック導入や利用に対する障壁となっている。
起業という観点からみると、日本では起業するに適した環境がまだまだ未整備だということも原因の一つとして挙げられる。名もない未上場のベンチャー企業が資金調達するには、日本ではまだ難しいと言わざるを得ず、起業文化自体が浸透しているとも言えない。欧米、特にシリコンバレーでは、資金調達だけでなく、起業に対する助言やサポート、大学などの研究機関との共同といったエコシステムが整っており、それがアメリカの起業文化に大きく寄与している。こうした面を比較してみても、日本のフィンテック業界にはまだまだ課題が山積だといえる。

○具体的なサービスと企業名

○既存の金融機関はどのように変わっていくのか?

次々と誕生し、便利になっていくフィンテックサービスを前に、既存の金融機関は再編を迫られている。特に銀行は、銀行そのものがいらなくなる、という話も浮上しているくらいだ。既存の金融機関は、どのような対応が迫られているのだろうか。

・銀行の預金口座の再構築
資産運用アプリの登場により資産運用のハードルが下がれば、今までのように預金口座にすべて寝かせておく、という状況が減る。特に現行の預金口座では、利息も少なく、信頼性以外の面で預金口座に多額を置いておくということはあまりメリットがない。預金額が減額すれば、当然銀行の経営に大きな影響が生じる。そのため銀行は、預金口座自体の再編を求められる。

・他サービスとの連携(API)の潮流
フィンテックサービスにより生活が豊かになってくると、生活の基盤を支える銀行との連携により、新たな価値を生み出すことができるようになる。ほかのサービスとデータ連携し、あるサービスがほかのサービスと連携できる仕組みをAPI(Application Programming Interface)と呼び、現在多くの銀行で取り入れられている。例えば、住信SBIネット銀行は、資産管理アプリ「マネーフォワード」と連携することで、自分の口座の残高照会や出入金履歴を確認することができる。みずほ銀行はLINEと連携することで、LINE上でスタンプを送るだけで残高照会が可能になるサービスを提供している。こうした他サービスとの連携による新たな価値提供も、既存の金融機関の対応例として挙げられる。

・その他、メガバンク各行の取り組み
そのほか、メガバンク各行の取り組みを見てみよう。三菱東京UFJ銀行は、2016年にハッカソンイベントを開いたほか、フィンテック起業をサポートするイベント「Fintechアクセラレータ」を開催した。2017年には独自の仮想通貨「MUFGコイン」の開発を発表、同コイン発行のために、2018年には新たな取引所も設立する方針だ。
みずほ銀行はSoftbankと提携して、AIによる貸付審査「J.Score」を提供。利用者の情報を入力することで、AIがそれらを読み込んで判断し、スコア化することで、与信業務を簡略化するとともに、新たな顧客獲得を目指した。またIBMワトソンをコールセンターに導入することで、顧客データを集め解析し、オペレーターの画面に最適な提案を提示するという取り組みもしている。みずほ銀行はほかにも、AIロボット「Paper」を窓口に導入するなど、率先してフィンテックを取り入れる姿勢を見せている。

○フィンテック業界に求められる人材

求められる人材は企業ステージによって異なる

1、シードステージ
まだサービスをローンチする前にあるようなステージ。この段階ではサービスを作るためのエンジニアはもちろんのこと、金融業界の経験者も必要である。現存するフィンテック企業でも、マネックス証券に勤めていた辻庸介氏(株式会社マネーフォワード代表取締役)のように、業界人が業界の課題を感じ、起業するというパターンも多くみられる。

2、アーリーステージ(社員数:10~30名程度)
サービスをローンチし、スケールさせていくステージである。この段階では、まだプロダクトが固まりきっておらず、顧客からのフィードバックをいかにプロダクトに反映させていくのか、そのサイクルをいかに早く回せるかが鍵となってくる。そのため、セールス経験はもちろん、プロダクト全体に対する理解度が求められる。また、オペレーション面の仕組みも整っておらず、試行錯誤を繰り返しながら自走できる力が必要となる。

3、ミドルステージ(社員数:30~80名程度)
このステージは、サービスがある程度軌道に乗り始め、人も急激に増加するステージである。この段階になると、個人よりもチームで動くことが多くなり、これまでの経験やノウハウを整理して体系化し、チーム全体でナレッジを共有していける人間が必要になる。そのため、いちプレイヤーとしてだけでなく、体系化し、わかりやすく伝えるコミュニケーション能力、マネジメント能力も重要視されてくる。また、人が増え、会社としても体制を整える必要があるため、人事などのコーポレート部門も必要になってくる。そのため、こうした分野での経験のある人も活躍が期待されるだろう。

4、レイターステージ(社員数:100名程度~)
上場も視野に、さらなる拡大を目指していくステージ。そのため、資金調達やM&A、他事業との業務提携といった選択肢が出てくるのがこのステージだ。この段階では、今までの単一事業の構成メンバー+コーポレートメンバーという構図の他に、経営企画やCFOといった専門知識をもったタレントの存在が必要となる。上場に向けた内部監査体制などのコーポレート強化の必要も出てくる。そのため、大企業でのマネジメント経験や、M&Aなどに詳しい人も求められるようになるタイミングである。

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