「旅行・観光」業界で求められる経験とは? 旅行・観光業界の説明から、具体的な企業、必要な経験を解説
〇旅行・観光業界の概況・トレンド
・訪日外国人観光客の圧倒的増加
日本へ訪れる外国人観光客は近年増加傾向にあり、特にここ数年は非常に顕著である。2002年500万人程度だった外国人観光客は、2016年までの15年間で約5倍に伸びている。2016年の訪日外国人観光客数は約2400万人で、消費額は8兆円に上る。この背景には、東南アジア地域の経済発展が挙げられる。マレーシア・ベトナムといった東南アジア諸国における経済発展により、日本に旅行するだけの経済的余裕が生まれ、結果多くの外国人観光客が日本に流入した。この経済発展は今後も続くことが予想されるため、今後も大きな市場が期待される。東京オリンピックも大きな要因の一つだが、それは一過性のものである。長期的な視点に立つと、こうした国際経済の事情が大きな影響を与えているのだ。
・政府は「観光立国」を国家戦略の中心の一つに
2017年に「観光立国推進基本計画」が閣議決定された。2020年には4000万人、15兆円を目指し、国内旅行消費額も21兆円を目指して政府も様々な政策を打つ方針だ。具体的には、文化財を中核とした観光拠点及びその周辺の言語的整備、ビザや旅行業法など法的規制の緩和、無料Wi-Fiの設置、通訳や観光経営人材の育成などが挙げられる。資源のない日本にとって、観光業は重要な産業の一つだ。旅行・観光業界は市場の成長性だけでなく、政府からの追い風も吹いてきている。
・ネット予約の拡大により、個人で旅行手配ができる時代に
また、近年のインターネットの発達により、ネット予約が拡大している。2015年度の日本のオンライン旅行市場の規模は、9兆7033億円、旅行全体におけるオンライン販売比率は39.4%であり、2013年度の33.9%から過去2年間で約6ポイント上昇した。それまでは旅行代理店を通しての手配がほとんどだったが、現在はインターネットを介して個人が直接情報を入手することができるようになったことで、ユーザー個人での手配が可能となった。これにより、個々人のニーズに合った旅行のプランニングが可能になったことで、既存の旅行代理店側にも変革が求められている。
・旅行ニーズの多様化
さらに、個々人における旅行に対するニーズも多様化してきている。近年ではアニメのファンが劇中の舞台になった場所をめぐる「聖地巡礼」や、今は使われなくなった建物や場所をめぐる「廃墟巡り」などがあり、これらの地域における経済的影響は大きいものがある。以前は温泉や美食など、最大公約数的なサービスが多く、ユーザー側もそれで十分であったのが、現在はニーズの多様化によって、提供するサービスにも多様性が見られるようになった。
・空港経営におけるリテール事業重点化
空港経営においても、変化が起きている。ここ数年、続けて空港経営が民営化し、さらなる売上拡大を図る中で、リテール事業に重点が置かれ始めている。空港における収入は、滑走路の利用料や着陸料といった航空系収入と、鉄道やリテールなどの非航空系収入に分かれる。このうち航空系収入は、近年の飛行機の軽量化・LCCの発達などにより伸び悩んでいる。こうした背景の下、非航空系収入、とりわけ空港内のテナント賃料や物販・飲食物による収入であるリテール事業に力を入れていこうという流れができたのだ。そのため、外国人観光客向けの言語的・文化的サポートの需要が高まり、IT技術の発達と相まって、新たなサービスの登場が待たれている。
〇旅行・観光業界の課題点・問題点
・資金調達の難しさ
このように、追い風吹く旅行・観光業界であるが、必ずしも良いことばかりではない。まず課題として、資金調達に成功している企業の少なさが挙げられる。実例では
・オープンドア(東証一部上場)
・ワンダーラスト(インキュベイトファンドやリクルートグループから出資)
・アソビュー(JTBなどと業務提携し6億円の資金調達に成功)
などがある。状況としては「楽天トラベル」「じゃらん」といったなど大手の独占が強いことも、原因の一つとして挙げられるだろう。買収された例としては、Voyagin(旧エンターテイメントキック)が楽天に買収されたなど、事例としては存在するものはある。概して資金調達面においては、旅行ベンチャーは各社は総じて苦労しているのが現状だ。
・地方ならではの難しさ
「アソビュー」など、旅行・観光事業は地方を巻き込むことが多くなる。その際には、地域の特性を知りつつ、コミュニケーションを図る能力が重要だが、地方ならではの難しさもある。観光事業に対する地域住民の理解を得るのが難しく、事業が前に進まない場合もある。また、事業をつくる際に必要な観光関連のデータが整っておらず、整った形で入手するのが難しい。自然体験系であれば、季節や天候によって大きく売上が上下する可能性もある。こうした地方ならでは問題も視野に入れる必要がある。
・観光地が市場原理にさらされる可能性がある
観光地にビジネスを持ち込んだ場合、とりわけ後発事業者が参入すると、価格競争の原理が働くようになる。そうなると、価格に目がいきがちになり、現地の資源や観光産業に長期的に維持されることが難しくなる場合もある。こうした産業資源を守ることも、ビジネス側として果たすべき使命の一つだろう。観光地が市場原理にさらされる危険性をはらんでいることも同時に視野に入れなければならない。
〇旅行・観光業界ビジネスの具体的事例・企業例
〇旅行・観光業界で求められる人材
旅行・観光業界のベンチャー企業において、求められる人材や経験は、企業のサービス内容によってかなりばらつきがある。全体的にアプリやwebサービスを作っている会社が多いので、エンジニアには広く活躍の機会があるが、ビジネス職に求められる経験にはバラつきがある。先の6分類でいうと、「宿泊」のカテゴリーは、旅行業・不動産業のスキルが評価されえる傾向にある。宿泊施設をつくる際は、旅行業法や不動産関連の法律など、様々な規制をクリアすることが求めらる。旅行業界相手に営業をかける場合には、その業界の経験が活きてくる。自分が志望したい会社がどのような事業内容をしているのか、選考を受ける前によく把握しておくことが重要だ。
・企業フェーズごとの求められる人材
こうしたベンチャー企業では概して、企業のフェーズごとに求められる人材が変わってくる。ここでは創業期・アーリー・ミドル・レイターの4つに分けて解説する。
① 創業期(社員数:数名~10名程度)
会社を立ち上げ、資本金からの出費をなるべく抑えながら、商品となるサービスを開発する段階である。アイデアを持った起業家・創業者と、それを形にするエンジニアチームで構成されることが多い。創業者を見てみると旅行業界の経験は必ずしも必要でないことが多い。山野智久氏(アソビュー株式会社代表取締役)はリクルート(HR事業部)出身で人材業界出身、堀江健太郎氏(株式会社ワンダーラスト代表取締役)も外資コンサルティング業界の出身だ。
② アーリーステージ(社員数:10~30名程度)
完成した商品・サービスを世に広め、一人でも多くユーザーを増やしていく段階である。この段階ではエンジニアの外に、セールスが必要となってくるフェーズでもある。特に社内オペレーションは未整備のことが多いため、リソースがない環境下での営業経験が求められる。セールス対象によって求められる経験・スキルは変わってくる。旅行会社が相手になる場合は、その業界について詳しい方がよいし、海外営業であれば語学のスキルは必須となる。逆に言えば、それだけ多様な人材が業界内で活躍できるということなので、自身のスキルを活かせる会社を選ぶことが重要だ。
③ ミドルステージ(社員数:30~80名程度)
会社も少しずつ人数が増え始め、組織として形作られてくる段階である。それまではひたすら個人プレーでの仕事が多かったところから、人数が増え、会社として組織立って動く必要が出てくる。そのため、部下の教育やマネジメント、社内の連携といったコミュニケーション能力が重要視される。求められる人材としては、社内のオペレーションを仕組化し、組織を整えることのできる人材や、コーポレート側の人材も増えている。
④ レイターステージ(社員数:100名程度~)
上場や資金調達などを通して、さらに規模を拡大するとともに、新規事業やM&Aなどの計画もあがってくるのがこのフェーズである。またイグジットに向けた戦略も重要となってくる。上場するのか、もしくは大手企業と資本業務提携、M&Aといった道を選択するのか。こうした経営企画・ファイナンス面でのサポートができる人材も必要となる。組織として大きくなってきているため、ベンチャーならではの勢いを活かしつつ、会社としての交通整理を行う人材も必要となるだろう。より一層の飛躍と足場固め。攻めと守り、両面でのプロフェッショナルが必要となってくるステージである。