キャリアの選択肢として、今や広く受け入れられつつあるスタートアップ。

スキルや経験を積んだビジネスパーソンが、「自分の力を試してみたい」「よりハードな環境でチャレンジがしてみたい」といった気持ちに駆られ、スタートアップに転職するといった事例も、近年よく見かけることだろう。

一方、スタートアップとはいっても、カルチャーや事業フェーズなど、その実態は千差万別。
数多ある企業の中から、自分が本当に活躍できる環境を見極めることが大切だ。

そんな「スタートアップにおける活躍人材」を見極めるうえで、先進的なサービスを提供している会社がある。
「脱。感覚人事。」を掲げ、活躍人材の傾向をデータ分析できるツールを提供し、上場企業を中心に多数の導入実績を持つアッテルだ。

今回は、そんな同社より、代表取締役社長の塚本氏にお越しいただき、「データから読み解く、スタートアップ活躍の秘訣」についてお話しいただいた。
近い将来スタートアップに挑戦してみたい、スタートアップでもっと活躍したいと考えている皆さんにはぜひご一読いただきたい。

登壇者

塚本 鋭
株式会社アッテル 代表取締役 CEO
東京大学・大学院にてAI研究に従事。人工知能学会研究会優秀賞・東京大学工学系研究科長賞(総代)等受賞。
株式会社クラウドワークスにて事業責任者、子会社副社長等を歴任。2018年株式会社アッテル設立。

スタートアップ転職における成功とは

「スタートアップにチャレンジして、成功を掴み取りたい」

誰しもがそういった思いを胸に、スタートアップの世界に足を踏み入れるものだろう。
だが、そもそもここでいう”成功”の定義とはなんなのだろうか。

アッテル塚本氏によると、成功の定義は様々でありつつ、大きく分けると6つの要素があるという。

塚本:スタートアップに転職するメリットは、自分が成長できる、幅広い業務を経験できる、若手のうちからマネジメントが経験できる、事業を創る能力が身につく、仕事における制約が少ない、優秀な人と近くで働けるのいずれかに大別されることが多いです。

一方、これらの要素は、裏返すとこのようなデメリットにもなってしまう点に注意が必要です。
成長は自分次第、自分が社内で一番の専門家、超実力主義、学ばなければならないことが多い、自分で意思決定する必要がある、ヒトの問題が深刻といった難点を抱える環境でも、これらのデメリットをデメリットだと感じないような人が、ある意味スタートアップに向いている人だと言えます。

スタートアップで活躍する人材の特徴

とはいいつつ、スタートアップ転職における成功の定義を、あえて一つにまとめるなら、それは「入社後に活躍できたかどうか」に集約されるのではないかと塚本氏は話す。
たしかに、活躍さえしていれば、上記のメリットはすべて享受できるし、さらには自分が人生を捧げたいと思った事業も成長しているはずだ。

さらに、そんな「活躍する人材」の特徴は、企業の視点から考えると以下のように考察できるそうだ。

塚本:マネジメント体制が整っていないことが多いシリーズA~Bの企業では、モチベ―ションのセルフコントロール力なども大切ですが、一般的に、活躍している人材はスキルとカルチャーの面で企業と深くフィットしていることが大半です。
ですが、仮にそのどちらかに優先度をつけるのであれば、カルチャーフィットの方が重要でしょう。
それは、スキル不足は育成によって補うことができますが、カルチャーがあっていない人をマッチさせるのは難しいからです。

スタートアップにマッチする人が持っている価値観

ここまでの話をまとめると、スタートアップ転職における最も重要な点は、カルチャーや価値観が、スタートアップやその会社とマッチしているかどうかになりそうだ。

それでは、スタートアップで活躍する人材が持っている価値観とはどのようなものなのだろうか。

アッテルの適性診断によると、下記図の9つの価値観の強弱で、活躍の度合いをおおよそ判断することができるそうだ。

また、その理由について、塚本氏はこのように説明する。

塚本:統計上、スタートアップでの活躍と強い関係性が見受けられる価値観は、この9つに絞られます。
中でも、『自我』『挑戦』『やりがい』『ハードワーク』の資質が強い人、次点で、『論理』 『達成』『適応』『公私混同』の資質を持っている人がスタートアップで活躍する傾向にあります。
高い不確実性に向き合わなければならない、スタートアップ故の結果かと思います。
一方、意外にも『ストレス耐性』といった項目との因果関係は見られません。

『論理』の項目に関する考察も、非常に興味深いです。
実は、スタートアップの役員の価値観を分析していくと、CEOには感性・論理タイプのどちらの資質も見られる一方、役員クラスには論理タイプが多いことが分かっています。
これは、社長の掲げたビジョンをもとに、ロジックを組みながら、仕事を進めていくことが、役員には求められるからだと思います。
なお、CEOが論理タイプの場合には、感性タイプの役員が活躍しているケースもあります。
あくまで、役員陣の能力は、社長の苦手分野を補填するように決まっていくということです。
そのため、アーリーフェーズの企業に入る場合には、CEOの価値観に着目してみるのもよいでしょう。

環境ごとに求められる資質の違い

ここまでの内容を読み、もし活躍する人材とは違った価値観をお持ちの方は、不安に感じたかもしれない。
だが、心配する必要はないと塚本氏は言う。

塚本:活躍する人材に求められる価値観は、企業のフェーズやカルチャー、さらには職種によっても異なります。
例えば、『共感』や『調和』を大切にしているタイプは、シリーズB以降のスタートアップで活躍する事例が多くみられています。
それは、会社の規模によって、図のように求められる能力が変化するからです。

シリーズAまでのフェーズだと、1職種に1人しかいないような状況であるがゆえに、どうしても、個人としての突破力や事業マネジメントスキルが求められます。
一方、シリーズBでは、方向性が決まっている中での拡大生産スキルが必要なため、ヒトマネジメントのスキルが重宝されるように変化します。

また、同じ会社の中でも、職種によって活躍する人材の要件は異なります。
例えば、経理やインフラ担当のエンジニアなど、リスク回避の役割が求められるポジションのメンバーには、『共感』や『調和』を大事にする価値観を持った人が活躍することが多いです。
さらには、仮に価値観が合わなくとも、それをチャンスと捉えてうまく活用することで、活躍している方もいます。
活躍出来るかの全てが価値観によって決まるわけではなく、自分の適性を上手に活かすことが重要なのです。

入社後のポイント

最後に、入社後のキャリア形成のポイントについても触れておきたい。

もし、自分の目指す方向性と現在の価値観があっていない場合には、上手にステップアップを踏むことで、その溝を埋めることができるそうだ。

塚本:例えば、『調和』の価値観が強いがCHROを目指したいという場合には、役員になる上では避けられない『事業マネジメントスキル』を高めることが重要です。
そのためには、例えば、数字を出すことが強く求められるセールスとしての経験を積んでみることが役に立つかもしれません。

さらには、自分の価値観と上手に付き合っていくことも大切です。
実は、環境や経験によって、自分の価値観が多少揺れ動くことはあっても、本質が変わることはほとんどありません。
ですから、「成果主義の環境に身を置いていたから、調和重視の性格が変わったはずだ」のようには考えず、あくまで自分の価値観と、これまでの経験や環境は切り離したうえで、自分の強みをしっかりと理解し、活かしていくことが大切です。

最後に

いかがだっただろうか。

スタートアップに転職するといっても千差万別であること、また、活躍するためのポイントも個人によって異なることが実感いただけたかもしれない。

スタートアップか否かといったシンプルな切り分け方だけではなく、自分の資質と会社の価値観を理解しながら、個々人にとってよりよいキャリアを築いてもらえたら幸いだ。