ライフステージや価値観の変化が訪れ、仕事やキャリアの岐路に立たされることも多い30代。

がむしゃらに駆け抜けることが出来た20代とは異なり、
「守るべき家庭もあるが、チャレンジしたい気持ちも捨てられない」
「会社でのポジションは確立できたが、昔ほど仕事に打ち込めていない気がする」
などのように、積み上げてきたものがあるからこその悩みが出てくるのが、30代のキャリアの特徴とも言えるだろう。

そこで今回は、ベンチャーで仕事に没頭する20代を過ごし、30代の現在もスタートアップの前線で活躍する、HERP代表・庄田氏とリースCHRO・野島氏を招き、「30代のキャリア」についてお話しいただいた。

今のままキャリアを突き進むのか、それとも違う道に飛び込むのか。
キャリアの岐路に立っている方々に、ぜひご一読いただきたい。

登壇者

庄田 一郎
株式会社HERP 代表取締役CEO
京都大学法学部卒業、リクルートに入社。SUUMOの営業を経て、リクルートホールディングスへ出向後、エンジニア新卒採用に従事。
その後、エウレカに採用広報担当として入社後、同責任者に就任。Couplesプロダクトオーナー職を経て、2017年3月にHERPを創業。

野島 繁昭
リース株式会社 執行役員 CHRO
早稲田大学工学部在学中より創業期のスローガン株式会社にインターンとして携わり、9人目の社員として入社。同社が100人規模に成長するまで10年にわたり、法人営業、媒体責任者、京都支社の立ち上げ責任者、企画責任者を歴任。
フリーランスとして独立後、MIMIGURIにて強くしなやかな組織作りに従事。
2021年4月にリース株式会社にCHROとして参画。その傍ら、ベンチャーの経営者・マネジャーに個人向けコーチングも行っている。

今のままキャリアを突き進むのか、それとも違う道に飛び込むのか。
キャリアの岐路に立っている方々に、ぜひご一読いただきたい。

30代になるまでの仕事観の変化

ベンチャーでキャリアを積んできた30代のビジネスパーソンは、一体、どんな仕事観を持っているのだろうか。

スタートアップのCXOを務めている2人と聞くと、
「仕事一筋な人生なのではないか」
「自分とは縁遠いキャリアを歩もうとしていそうだ」
と思ってしまうかもしれない。

しかし、意外にも二人の口から語られたのは、今の価値観が出来上がるまでの等身大の悩みや葛藤だった。

庄田:そもそも、大学時代は本当に遊んでしかいませんでした(笑)一般的な大学生らしく、就職活動が始まってからキャリアを真剣に考え始めて、IT領域の面白さと成長環境に惹かれてリクルートに入社することを決めました。

入社後、最初の1年半ほどは営業を担当していたのですが、突然の辞令で、自分の希望というわけでもなく人事へ異動することになりました。それが結果的に、1つの転機になったと思っています。

異動した直後は、正直なところ戸惑いがありました。他にも志望している企業がある候補者の方々に、自分たちを選んでいただけるよう説得するのはどうなのかな、強引なんじゃないかなと(笑)しかし、ある時から、自分が好きなリクルートの魅力をプレゼンする仕事なんだと思えるようになってきて。そこからは、気持ちも晴れやかになりましたし、人事という仕事にやりがいを感じるようになりました。そんな心境の変化もあって、それ以降のキャリアでは一貫してHR領域に携わっています。

徐々に、よりITの最前線に近い領域で働きたいなという思いが強くなり、転職することにしました。
まずは興味のある企業をITスタートアップを中心に5社ほどピックアップして、それぞれ3週間ほどフリーランスとして働かせてもらいました。その中で、創業者の優秀さに惹かれたエウレカに、採用広報担当として入社しました。

エウレカに在籍した1年3か月ほどは、土日も必要ないぐらいの感覚で仕事に没頭していました(笑)その後、カップル向けコミュニケーションアプリ『Couples』のプロダクトオーナーとして異動し、事業活動がひと段落したタイミングで、自分自身で立ち上げた会社に心血注ぐことができたらもっと幸せなんじゃないかという思いが芽生えてきて、28歳の時に起業しました。
当時、エウレカの共同創業者である赤坂さんと西川さんも「やりたいことがあるならすぐに取り組み始めた方がいいよ」と応援してくださり、それも最終的な意思決定の後押しとなりました。

僕の20代はざっとこんな感じでした。
野島さんはどんな20代を過ごされましたか?

野島:僕は理系だったんですが、実は途中から、大学にはほとんど行っていなくて。
他大の人と絡む機会が増える中で、成り行きで大学院に行くのが嫌になっちゃったんですよね。それで、学部生で就活を始めました。

でも、面接で「何がしたいの?」と何度も聞かれる中で、何がやりたいのかが分からなくなってしまいました。
それで当時、就活サービスのGoodfindでお世話になっていた、スローガン代表の伊藤に相談しました。

どんな回答がもらえるかなと期待して相談したんですが、意外にも返ってきたのは「それは働かないと分からないよ」という答えで(笑)
そこから就活を辞めて、相談先だったスローガンで長期インターンを始めることにしました。

結局そのまま、新卒としてスローガンに入社したわけですが、入社を決めたのは、代表の考えに惹かれた部分が大きかったです。
職業選択をする上では、自分が何を得たいかのTakeばかりでなく、世の中に何をGiveしていけるかを考えなさいと教えられたり、ベンチャーの面白さに触れさせてもらったりしたことが印象に残っていますね。

そこから、長期インターンの期間も含めて、スローガンには結局10年近くいました。
今も会社に残っていない理由は、居心地があまりによくなってしまったからです(笑)

あまりに心地がよすぎて、このまま現状維持し続けてしまいそうな感覚や、結婚をきっかけに守りに入り始めている自分がいました。それで、これはまずいぞと思うようになりまして。
次のキャリアが見えてから辞めるのでは、いつになるのかもわからなかったので、取りあえず会社を飛び出しましたね。

スローガンを辞めてから2年くらいは、知人の会社でフリーランスとして働きながら、楽しくやっていました。
ですがコーチングと出会い、自分が今後何をしていきたいのか考える中で、リスクをとってでも自分のやりたいことで旗を立てている起業家がやっぱり好きでしたし、そんな起業家に対して、フラットな関係性で、一緒に戦う仲間として働きたいという思いが芽生えてきて、スタートアップに再度戻ってきました。

その中でも、CEOが未来志向でビジョンを拡張させることに集中できるよう、人・組織を変革する役割を担うCHROという仕事に出会いまして。
「これは素敵な仕事だ!!!」とピンときて、人事未経験ながらチャレンジすることにきめたんです。
「人事未経験だけどCHROになりたい」とFacebookで投稿したら、偶然知り合いから声がかかり、ご縁が繋がったのが今のリースでした(笑)

なんのために働くのか

20代で様々な経験や葛藤をしながらも、30代を迎え、新たなチャレンジの真っただ中にいる2人。

さらなる経験や葛藤の末に、彼らは今、一体なんのために働いているのか。

その核心に迫ってみた。

庄田:大前提として、「人は自分のために働いている」と思っています。私自身もそうです。年月を経て変わってきたのは、そのベクトルの向け方です。

20代の頃はコンプレックスの強さから、周囲に認められたいという気持ちや評価をひたすら上げたい気持ちが原動力となって働いていました。

実は起業をしたのも、自分の承認欲求の強さが背景にありました。同世代の起業家が多い中で、「自分も彼らと同じくらい事業や組織づくりができる」と思いたいプライドや、自分の会社のことが新聞などのメディアに掲載されることで自分自身へのコンプレックスの解消につながるのではといった気持ちがあったんですよね。

30代となった今も、自分のために働いているのは変わらないままです。
しかし、どんなベクトルで働くと気持ちがいいのかという点と向き合い、思考をめぐらせる中で、誰かからの評価よりも成果のために働きたいと思うようになっていきました。

というのも実は、起業してから1〜2年ほどで、それまでの承認欲求がほとんど完全になくなりまして(笑)ただ、コンプレックスを解消したというよりも、個人の感覚で仕事をしなくなったという表現が近いように思います。会社の人格そのものが、自分自身と一致してきたような感覚があります。

仕事をしている中で、自分が褒められることにはあまり価値を感じることがなく、ユーザーのみなさんに少しでも喜んでいただくことが全てだし、向き合い続けていきたいと思うようになったんですよね。もちろん、HERPが組織と事業の両面で順調に成長していくなかで、世の中から評価いただくことで、自分が満たされていった部分もあると思います。

さらに大きなきっかけになったのは、新卒採用の実施でした。実はHERPでは、創業メンバー4人で設立したその年に、いきなり新卒で4名採用しているんです(笑)

シード期で人手が足りず、採用にも苦労する中で、気が付いたら多くのインターン生が活躍している組織になっていて、自分が新卒としてHERPに入社する選択肢はあるか?と聞いてくれるメンバーが出てきたんです。それも、外資コンサルやGAFAからの内定をすでに持っているような優秀な学生たちでした。

その頃から、HERPという存在が自分のためのものではなくなってきました。
関わってくれている人たちに、より良いキャリアを提供していきたいという気持ちも芽生えますし、会社として社会的意義のあることに取り組んでいきたいという気持ちも強くなりました。何より、信頼できる人たちと働けていること自体に、より幸せを感じるようにもなりましたね。

キャリア開発という点では、どの企業でマネジメントを経験したかよりも、どんなお客さんを対象に、どんな課題解決や価値提供ができたかということに本質的な価値があり、今後、世の中的にも評価されるスキルになるんじゃないかなと考えています。なので、そういった機会を最大限にメンバーに提供していきたいと思っています。

野島さんは、何のために働いているんですか?

野島:20代は、会社や社会の役に立ちたいという気持ちがとにかく強かったです。

世の中を良くしていこうというスローガンのミッションにとにかく惹かれていたので、会社を大きくし、社会を変えていくためのピースになるのであれば、どんなことでもやりたいと思っていました。
明日からパンを売ってこいと言われても、やっていたと思います(笑)

社内で京都支社を立ち上げるために、突然の異動が決まったこともあったんですが、その時も、会社の看板に泥は塗れないぞという気持ちがモチベーションになっていました。

ですが10年が経ったある時、めちゃくちゃ輝いている社外の友人たちを見て、自分とのギャップをメタ認知するようになったんですよね。

日本でスポーツをビジネスとして普及させようと総合商社を飛び出した友人や、宇宙ステーション内で使われるドローンをJAXAと共同開発した起業家の知り合いがいたんですが、彼らは、自分のコミットできるものを見つけて、そこに情熱を注いでいて。とにかく眩しさとオーラに溢れていました。

でもそういう人たちも、決して最初からそうだったわけではなくて、波がありながらも、あるとき急に開花していくんですよね。
そんな様子を見ていて、自分もそうなりたいと思うようになりましたし、自分もそうなれるはずだという根拠なき自信もありました。

スローガンには長くいたこともあって、社内で相談に乗るだけで感謝されるような状態になっていました。
好きな会社や人の役に立てている感覚はありましたが、自分が人生をかけて燃え上がっている実感は持てなくて。だから、会社を飛び出すことにしました。

その後関わっていたミミクリデザインでは、結構なカルチャーショックも経験しました(笑)

「子供が砂場でいつまでも砂遊びしちゃう」ような、個人の衝動を大事にしている会社なんですが、初めての社内合宿で「”会社のため”とか言われちゃったらしんどいよね~」という会話がされていたのを聞いて、本当に驚いたのを覚えています。

正直なところ「それで大丈夫?」と心配になった気持ちもありましたが、それでもちゃんと組織が回っているのを見て、自分自身の衝動や情熱にコミットしたいという思いが一層強くなりました。

30代をどう生きるか

20代の紆余曲折を経て、マインドセットを新たに走り始めた30代。

最後に、今後も挑戦を続けていく2人の展望を、30代のキャリアサンプルとして伺ってみた。

野島:自分にはできないといった心のブレーキや、無理に人の期待に応えてしまう心のエラーをなくしていきたいと思っています。

それと、現職のリースでは熱狂する組織をつくりたいですね。
暑苦しいんですが、僕、好きな言葉が”青春”で(笑)

一人一人が仕事に誇りと情熱を持っていれば、目がキラキラしてくるし、困難も乗り超えやすくなるじゃないですか。
それに、世の中にないものを生み出していくスタートアップだからこそ、そういった組織の強さが必要だと思っています。

まとめると、個人としても組織に対しても火をつけていくことが僕のミッションです。
そんなこともあって、実は、COOからはチャッカマンって呼ばれています(笑)

庄田:”採用から日本を強くする”というミッションには、30代に限らず、その先もずっと取り組んでいきたいと思っています。

実は元々は、過去の自分と同じ境遇である、人事の方々を救いたいと思っていました。なので、設立当初は、求人票を作ったり、日程を調整したりといった、採用活動に関連する事務作業の全てを自動化することを事業開発のコンセプトに置いていたんです。

でも、実際に導入企業のみなさまに課金いただくフェーズで、それではダメなんだと思うようになりまして。企業の経営層は、求人媒体やエージェントには採用予算としてお金を割きますが、人事担当者の作業を楽にするためには予算を捻出してくれないんですよね。企業は、従業員を採用できないことに困っているので、つまることろ、自分たちの事業コンセプトが企業のためになっていなかったことに気が付いたんです。

そこから、コンセプトの見直しを開始しました。採用のあり方を変えるには、事業活動における職種やポジションそのものの専門性を理解している現場のメンバーも一緒に採用活動に取り組んでいくことが大事なのではないかと感じたことから、「社員起点の採用を実現する」というコンセプトや「スクラム採用」という言葉をつくっていきました。

また、最近はコロナ禍の影響でビジネスが立ちいかなくなり、採用活動を止めたり、破産したりする企業も出てくるようになりました。個人的には、このことはかなりセンセーショナルな出来事で、このことが「何のために採用をアップデートするのか」という点とさらに深く向き合うきっかけとなりました。

現在のミッションである「採用から日本を強くする」という言葉には、その時に感じた、「日本における志の強い企業を助けたい」という気持ちが込められています。

とくに日本では、定石通りに生きていくことが当たり前だったり、ある意味、そこに従っていれば幸せに暮らせる環境があると思っています。

でも、そういうことを考えずに、もっと大きな成果を出しに行こうとする人たちがいて、そういった人がもっと成功すれば、日本にもさらにたくさんの熱量の高い志が生まれると信じています。そんな未来を、これからつくっていきたいと思っています。

最後に

いかがだっただろうか。

経歴こそ異なる2名のセッションだったが、持っている価値観には共通するものも多く、そこには何か、優秀なビジネスパーソンのエッセンスが詰まっているのかもしれない。

本記事が、キャリアの岐路に立たされるビジネスパーソンにとって、未来を切り拓いていく後押しとなれば幸いだ。