DXやデジタル化が声高に叫ばれる昨今。
そんな中、スタートアップを賑わせている業界の一つが、DX推進の旗振り役ともいえるSaaS業界だ。
本イベントでは、そんなSaaS業界で活躍するビジネスパーソンを招き、”転職後のチャンスや苦労”についてその内実を伺った。
登壇したのは、研究者向けSaaSを展開する株式会社POLにて、カスタマーサクセス責任者を務める荒金氏と、数々のSaaS企業に投資を手掛けてきたOne Capital代表の浅田氏だ。
これからスタートアップへの転職を検討している方には、ぜひご一読いただきたい。
登壇者
荒金 良行
株式会社POL カスタマーサクセス責任者
大手人材会社に2011年新卒入社をしてから10年間、一貫して新卒領域の法人営業の仕事を基軸にし、「日本の未来と企業の未来を創る」ことをミッションに、エンプラセールスの側面をもちながら、サービス開発、全社向け能力開発、顧客向け講演登壇など、社内でパラレルワークを実施。
その後2021年5月に株式会社POLに参画。同年6月よりカスタマーサクセス責任者に就任。
浅田 慎二
One Capital株式会社 代表取締役CEO
伊藤忠商事株式会社および伊藤忠テクノソリューションズ株式会社を経て、2012年より伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社(ITV)にて、ユーザベース(IPO)、メルカリ(IPO)、Box(IPO)、WHILL、TokyoOtakuMode等国内外ITベンチャーへの投資および投資先企業へのハンズオン支援に従事。 2015年3月よりセールスフォース・ベンチャーズ 日本代表に就任しSansan(IPO)、TeamSpirit(IPO)、freee(IPO)、Goodpatch(IPO)、Yappli(IPO)、Visional/ビズリーチ、スタディスト、Andpad、トレタ、カケハシ等B2Bクラウドベンチャーへ投資。2020年4月にOne Capital株式会社を創業、代表取締役CEOに就任。慶應義塾大学経済学部卒、マサチューセッツ工科大学経営大学院MBA修了。
10年務めた大企業を飛び出したワケ
POLに入社する前は、大手人材会社の10年選手だったという荒金氏。
法人営業からキャリアをスタートし、事業の立ち上げも経験するなど、順風満帆なキャリアを歩んでいるように見えるが、転職を決めた理由はどこにあったのだろうか。
荒金:元々は、前職を世間に認められるいい会社にすることしか考えていなくて、辞める気は全くありませんでした。
ただ、世の中をよりよくしていくという視点で物事を考え始めたときに、違う環境でのチャレンジを考えるようになりました。
浅田:僕も伊藤忠には15年いて、そこからセールスフォースに転職したんですが、そのときは、ベンチャーキャピタルをやりたくてしょうがなくて。
伊藤忠の子会社でベンチャーキャピタルの仕事をしたことをきっかけに、メルカリなどの優秀な方に奉仕できることが楽しくて、この仕事をずっとやり続けたいと思うようになりました。
ですが、本社に戻るように要請が来てしまい、そのタイミングで辞めました。
荒金さんが辞めることを決めたきっかけはなんだったんですか?
荒金:社会人生活を続けていく中で、できることが増えたり、影響をを与えられる範囲が広くなってきて、最初は自分の成長のために頑張っていたところから、周りの人や学生、日本のためにと少しずつ対象が広がるようになってきました。
日本の未来を考えると、若い人がもっと活躍できる世の中にならないと、明るい未来にならないだろうなと思っていて、当時、前職で営業をしながら事業開発側にも関わり始めました。
そこから、大学低学年向けのキャリア教育サービスを始めたり、日本で不足しているIT人材を支援できる事業を立ち上げたりしたんですが、社内の反応は「荒金君頑張ってるね、すごいことやってるね」という感じで、一緒に同じ熱量で立ち向かえる人は少ないと感じていて。
どうしたら社内で一緒に同じ熱量持てるかと考えて、同じ年代の人や先輩と1.2年かけて取り組みもしてきたんですが、やっていく中でやっぱり違うなという違和感が出てきました。
で、その違和感の正体って、ミッションやビジョンがないことだなと思って。
社内はシンプルに売上を高く積み上げることを目指していて、それは大事なことなんですが、それを何のためにやるかがなくて。そこで、どの旗のもとに集まるかが大事な観点だと思うようになりました。
社内でミッション・ビジョンをつくろうと思い、社長に提案をしたものの伝わらなかったり、立ち上げていたサービスの運営方針について社内の人と議論する機会も経て、これはずっと長くいる会社じゃないかもなと。
もっと心を共にできる仲間がいるかもしれないと、初めて外を見てみようと思いました。
浅田:大企業になればなるほど、仕事のモデルやプロセスは明確になるので、ミッションビジョンを意識しなくても稼げるようにはなってきますよね。
でもそれだと、俺の人生このままでいいのかなって思う瞬間はありますよね。
なんのために働いているんだろうとか、世にどんな価値貢献ができているんだろうとか。
スタートアップ転職のフレームワーク
大企業でキャリアを積んでいたところから一転し、外の世界を見始めたという荒金氏。
しかし、スタートアップとは言えども千差万別。
そこからどのように考え、企業を絞っていったのか。
スタートアップ転職のエッセンスを聞いてみた。
荒金:転職活動を始めた時点で、選択肢はSaaSのスタートアップに絞っていました。
1万人いる前職から転職するなら、同じ規模の会社に行っても同じ思いをするかもしれないので、どうせなら1から偉大な会社を作れるようなところに行きたいと思い、スタートアップ企業を見ていきました。
そこから、色んなSaaS企業を見る中で、規模感による違いを特に感じるようになりました。
まだまだ、自分が中心メンバーとしてこれから羽ばたいていける余地があるかどうかを考えると、100人未満のところがいいのではと思うようになりました。
加えて、自分の経験がどこまでいかせるかも大事だと思いました。
はじめは、自分が成長するためにはすごい人と働かないといけないと思っていて、すごそうな人がいるところに面談を申し込んでいたんですが、自分の成長を周りに求めていて、環境依存しているなと思い返しました。
それでも成長はできるのかもしれないですけど、自分がこれから働く企業に対して、何をGiveできるかを考えて決めた方が健全だなと。
加えて、これまで10年間人材業をやってきていたので、元々はそこから離れたいと思っていたんですが、まずはその領域で入っていくことが大事なのかなと思いとどまりました。
The Modelに書かれているフレームワークでは、報酬、キャリアとしての成長、ミッション、働く人の4点が会社選びの軸になると紹介されていますが、その通りだなとピンと来たので、この中で優先順位をつけていきました。
結論、ミッション共感を一番大事にしました。シンプルにどれだけわくわくできるかですね。
ミッションという旗のもとに人が集まってくるので、一緒に働く人の魅力もそこで決まるんじゃないかなと思いました。
一方で、前職の時にはそれなりに給料をもらっていました。
スタートアップに行くと給料が下がるという話はよく聞いていて、実際、POLに入社するにあたってもがくっと下がったんですが、それってどこまで大事なのかなと思って。
今貰える給料もそうですが、POLがもっと利益を出して、社会に貢献していけば、おのずと給料は高まりますし、自分が成長すれば会社も成長すると思っています。
さらに、POLが素敵なミッションを掲げているので、世の中ももっと良くなっていくだろうなと思ったら、今の給料は気にしなくていいかと思いました。
浅田:ミッションってパッと見ると、どういう意味なんだろうというか非常に哲学的ですよね。
僕は「その会社が信じていること」がミッションだと思っていて、人望って単語があると思いますが、マーチン・ルーサー・キングやスティーブ・ジョブズ、孫正義のような人の元に集まる人たちって、決してその人自体を信じているってことではなくて、例えば、キングであれば「人類の平等」を信じている人で、周囲の人はその人自身が掲げている考え方を信奉しているって事だと思うんですよね。
それでいうと、POLはどういったミッションの会社なんでしょうか?
荒金:未来を加速するというミッションに基づいている会社です。
世の中が回っていけば未来は良くなりますが、そこに到達する角度を高めることで、早くみんなで豊かになったり、笑顔になったりすることができると代表は思っていて、そのために研究が最も大事だという考えを持っています。
会社の中長期戦略を考える時も、このミッションをぶらさないことは決めていて、IPOの事を考えると、売上とかも大事なんですけど、ミッションからはぶらさないように立ち返るようにしています。
浅田:そんなPOLで荒金さんが働こうと思った理由について、より細かく教えていただけますか?
荒金:会社のミッションが、世の中と日本の成長にどこまでヒットしているか、いろんな会社と比較しましたし、キャリアに関しては、いずれ事業や組織をつくれる、さらには人材に限らず、幅広いフィールドで価値提供できるようになれるかを考えました。
POLは、今はHRTechの企業ですが、本来はLabTechの企業になることを目指しているので、研究に関わる色んなペインを解決できるようになる中で、目的は達成できるだろうと思いました。
なので、報酬も目先のことは考えていないです。
浅田:僕も投資家という関わり方をしているので、日本の有望なスタートアップが大型の資金調達をできるようになることで、ミッションが魅力的なだけじゃなくて、給与もいいし、上場したら青天井な世界を実現したいなと思っています。
なので、通常の1号ファンドは投資が平均30億円くらいのところを、160億円規模で実施しています。
そうすれば、若い方が嫁ブロックや彼女ブロックにあわずに済みますし、やる気しか出てこないですよね(笑)
転職後の苦労とチャンス
自分の理想と照らし合わせる中で、POLでのキャリアを選んだ荒金氏。
入社後、どんな仕事をしているのか、さらには、どんなチャンスや苦労が見えてきたのかを聞いてみた。
荒金:カスタマーサクセスとして、お客さんの理系採用を成功に導くことにコミットしています。
お客さんと一番接点を持っているので、要望を拾ってプロダクトの改善に繋げて、サービスを磨いていく主体になれるのが面白いところです。
また、どういう企業がPOLにフィットするのかを、既存顧客のデータを見ながら言語化して、セールスやマーケティングにフィードバックすることもできます。
さらには、この組織のリーダーとして、組織づくりや戦略づくりもしています。
企業がスカウトを打ち、学生が返信するところまではサービスで補完できていますが、その先は保証できていない状態なので、プロダクトを磨いて拡張することで、採用までの価値提供が出来るようにしたいです。そこまで出来て初めて、プロダクトとしては本物かなと思っています。
後は、こういったプロダクトの作りこみをデータドリブンでやっていく中で、採用業界やHRTech界隈での見本となるようなCS組織を作りたいなと思っています。
浅田:実際、入社してから半年でCS組織が2倍以上に大きくなっていて、社内でも一番人が増えてますよね。
きっとめちゃくちゃいい組織にされたんだと思いますが、具体的にどういった工夫をされたんですか?
というのも、入社した人がどんなもんかって、意外と周りの人って見てるよなと思ってまして(笑)
例えば、難易度の高いことを難しい言葉で言うよりも、まあまあ難易度は高そうだけどできそうなことを、分かりやすい言葉で言うリーダーの方が人心掌握できるっていったりしますよね
荒金:そういう意味で言うと、初期の信頼関係構築は成功しませんでしたね(笑)
前職のアンラーニングができていなくて、人柄面では受け入れられてたと思うんですが、組織運営面では、実は多くの反発がありました。
それが発覚したのが入社して2か月とかだったんですが、それまでは自分がうまくできているかどうかも分からないまま進めてしまっていたりして。
そこから自分の悪い部分を全部改善して、みんなと肩を組んでやっていけるような形をつくりにいきました。
色々と勉強して臨んだ部分もあったんですが、分かったふりをせず、分からない部分は聞いたり、メンバーにお任せしたうえでサポートしたりすることだ大事だと気付きました。」
浅田:最後の質問ですが、SaaS企業に転職したことによる苦労とチャンスについて教えてもらえますか?
荒金:とにかくカオスですね。最近は落ち着きましたが、前職で問題にならないようなことが、問題として勃発していました(笑)
今までいた会社がいかに色んな事が整っていて、問題が自然に消滅するか、ないしは、そもそも問題が起きない仕組みが出来ているかが分かりました。
ですが、1個1個の問題を質高く解決していくことで、いい会社やカルチャーが生まれていくと思いますし、これが大切なことだと思っています。
後は、「個人のやりたい」がとても大事で、会社が急拡大するためには一人一人の意志やオーナーシップが大切だと思っています。
メンバーからも「大企業っぽくなってますよ」という指摘を受けることがあるんですけど、誰が意思決定者だからとか、誰の仕事だからとか考えてしまうと成長が止まってしまいますし、個々人が業務外にしみ出していくところにチャンスがあると思っています。
浅田:大企業かスタートアップかに関わらず、やる気のある人とない人の差って歴然だなと思います。
意識高くて、かつ、行動してる人ですね。やたら博識なんだけど行動しない人とかではなくて、本当に行動している人。
そういう人が集まっている、ミッションに共感していて、やる気に溢れている、自責の人が集まる会社が、歴史に名を残す会社になるんだと思います。
最後に
いかがだっただろうか。
働き方やキャリアにおいて、大企業とスタートアップの違いはあるとは言えど、活躍する人材が持っている本質的な素養は変わらないのかもしれない。
本記事が、これからスタートアップに飛び込もうとするビジネスパーソンの、背中を押す一記事となれば幸いだ。