環境・エネルギーベンチャーで求められる経験とは?
環境・エネルギー業界の説明から、具体的な企業、必要な経験を解説
○環境・エネルギー業界の動向
エネルギー業界は景気に左右されにくく、安定した業界だとされてきた。しかし近年、再生可能エネルギーの台頭や自由化などにより、従来の姿を大きく変えつつある。エネルギー業界は「電力」「ガス」「石油」の3つの分野に大きく分かれる。各分野の特徴は以下のようになる。

・電力
家庭や企業、工場で使用する電気である。関連市場も含めると市場規模は20兆円にも及ぶ。かつては大手電力会社10社による地域独占体制であったが、2011年の東日本大震災を機に電力システム改革が進み、2016年の電力の小売り自由化を境に、異業種やベンチャーからの参入が相次いでいる。2018年5月22日時点で小売り電気事業者の登録数は478にも及んでおり、市場競争が激化しつつある業界である。

・ガス
都市ガスや液化石油ガス、LPガス(プロパンガス)など。国内の都市ガス事業者は200社以上、LPガス事業者は2万社以上存在するが、市場規模は電力業界よりも小さい9兆円程度である。2017年から都市ガスの全面自由化が始まっており、電力業界のような競争が始まることが予想されている。

・石油
ガソリンや重油など石油を元にした燃料を製造、石油からプラスチックや合成繊維を製造したりする。市場規模は電力業界を上回る29兆円にも及ぶ。すでに自由化されており、少数の民族系企業(JXホールディングスなど)と外資系企業(エクソンモービル)およびこれらの合弁会社(昭和シェル)による寡占状態にある。人口減少や石油からガス・電気へのシフトなどによって国内での石油需要が減少傾向にあるため、海外輸出や次世代エネルギーの開発、再編統合などが積極的に進められている。
○環境・エネルギー業界が直面している課題
・再生可能エネルギーへのシフト
日本政府は2015年に合意された「パリ協定」を踏まえ、2050年までに1990年比で80%の温室効果ガスを削減することを目指している。社会が必要としているエネルギーを供給しながらこの目標を達成するには、再生可能エネルギーの導入が必要不可欠である。温室効果ガスの主要な排出源となっているのは化石燃料であり、これに代替できるエネルギーが必要とされているのだ。
再生可能エネルギーは、技術革新によって既存の発電方法と遜色のない価格競争力を持ちつつある。固定価格買い取り制度(FIT)や、一定量以上の再生可能エネルギーの発電・購入を義務付けるRPS制度などの政策的な支援も普及を後押ししている。しかし、発電量が気象条件に左右されるという量的な問題や、一定量に達すると周波数の維持が難しくなるという質的な問題などがあり、大量導入への大きな障壁となっている。こうした欠点をカバーするために、お互いの長所を生かし短所をカバーしながら、火力発電などの従来型電源と組み合わせたシステムをいかに構築するかが課題となっている。

・自由化による競争激化
これまでのエネルギー業界は地域独占が認められており、サービスに必要なコストを料金として確実に回収できていた。しかし、そうした体制によってイノベーションが阻害され、高コスト体質の一因となっていた。こうした弊害を取り除くため、電力やガスの送配ネットワークを共通の流通インフラとして開放しながら、発電・小売り分野を自由化し、市場競争を通じて価格の引き下げや革新的なサービスを実現することを目指すエネルギーシステム改革が進められるようになった。改革の一環としては、2016年に一般向け小売り電力が、2017年に都市ガスの自由化が始まった。
国内のエネルギー需要が伸び悩む中、数多くの新規事業者が参入してきたため、エネルギー業界は激しい競争にさらされている。東日本大震災後、割安な原子力発電所の稼働を止め、割高な火力発電所を稼働せざるを得なくなった大手電力会社は、電気料金の値上げを余儀なくされた。これに対し原子力発電所を持たない新電力会社は、政府の再生可能エネルギー支援策もあって相対的に価格競争力を持つようになり、シェアを少しずつ拡大している。今後も2020年に電力会社における送配電部門の法的分離、2022年にはガス会社の導管部門の法的分離が行われ、大手電力・ガス会社に課せられていた規制料金が撤廃されるため、競争は今後ますます激化することが予想されている。
○環境・エネルギー業界における様々な取り組み
・メインサービスに付加価値をつける取り組み
自由化後、電力会社は価格以外でのサービスの差別化が難しく、顧客確保のための値下げ合戦による消耗戦に陥っているのが現状である。こうした状況を打開するために、電気だけを売らずに、IoTやAIを駆使して付加価値をつけることで差別化を図ろうという動きが出ており、そのための仕組みとしてスマートグリッドが模索されている。
スマートグリッドとは、電力の流れを供給側・需要側の双方向から制御して、最適化するための送電ネットワークを指す。需要側に設置されたスマートメーターから得られた電力消費や発電に関するビッグデータをもとにして、需要サイドの消費電気量や発電量を高精度に予測し、電気料金の安い時間帯に家電を動かしたり、自動で電気自動車の充放電を行ったりするようなサービスの提供を目指している。他にも、ブロックチェーンを駆使することで、家庭で発電した電気を、電力会社の仲介なしで直接取引しようという試みもなされている。

スマートグリッドに不可欠な双方向通信機能・制御機能を持つスマートメーターは、震災を機に業務の効率化や需要調整を求められるようになってから急速に普及しており、2024年には導入が完了する予定である。今後は情報インフラとしてのスマートメーターを実際に活用し、どのようなサービスを提供するかに焦点が集まっている。例えば関西電力は、ottaと提携し、高齢者見守りサービスを提供することを決定、実証実験を始めている。スマートメーターから得られる電力使用データをモニタリングし、電力使用量パターンが普段のパターンから大幅に外れた場合、高齢者に異変があったと判断し、声掛けや応急処理などの適切な処理を行うというものだ。今後もこうしたサービスが発展していくことが期待されている。

・業界の枠を超えた合従連衡
大手企業を中心に、従来の業界の枠を超えた合従連衡が進みつつある。種類としては以下の2パターンに大別される。

①大規模化によるコストダウンを目的に、大手電力会社や都市ガス、石油元売り業者、総合商社などが一斉に提携する動き
②資本力や営業力に優れた大手企業と、優れた要素技術を持つベンチャー企業が提携する動き

前者は、電力やガスを自社の商品やサービスとセットで販売したり、燃料調達コストを引き下げたりすることで価格競争力や利便性を高めようというものである。例えば、東京電力はソフトバンクや大阪ガス、JXホールディングスと提携し、電力に加えて都市ガスや通信とのセット販売を始めている。これに対抗して、東京ガスと関西電力は戦略的提携を結び、燃料調達の効率化を図っている。後者の例としては、東京電力とIT技術に強みを持つ新電力パネイルが提携して新会社「PinT」を設立し、IT技術を活用して電力やガスの全国販売を始めたものがある。
こうした合従連衡を通して、将来的には電気、ガス、石油といった業界の壁が崩れ、電力やガス、石油などを含めたサービスが一体となって提供される総合エネルギー産業へのシフトが進んでいくと予想されている。

・環境・エネルギー業界の具体的なサービスと企業名
ここからはエネルギー業界における先進的なサービスと、それを提供する企業を紹介する。エネルギー業界は、バリューチェーンごとに大きく「発電」「送電」「売電」「蓄電」の4つに分けることができる。そのうち、「送電」は広くインフラ化しているため従来の電力会社が、「蓄電」は東芝・日立といった日本の大手メーカーが強い領域だ。一方、再生可能エネルギーなどの新しい「発電」において、またそのような再生可能エネルギーを発電し売るという小規模な小売事業者が増えてきたことを受けての「売電」の効率化のためのサービスに、ベンチャー企業が参入している。
○発電
・株式会社レノバ
太陽光からバイオマス、風力まで複数の再生可能エネルギーを手掛ける発電事業を展開している。大手企業から独立しているがゆえに意思決定が速く、収益の一部を地域社会に還元したり、膨大な数の関係者との粘り強く話し合う場を持ったりするなど、地域に密着した事業展開を行っていることが強みである。2017年2月に東証マザーズに上場しており、秋田県由利本荘市沖合において国内最大級の洋上風力発電プロジェクトを主導している。

・自然電力株式会社
開発から設計・施工、維持管理など、太陽光や風力などの再生可能エネルギー発電事業に必要なすべてのサービスを手がけている。再生可能エネルギー発電所に関する世界最大級のエンジニアリング会社であるドイツのjuwi社と技術的提携を締結しており、juwi社のノウハウを活用して、地域に密着した事業を展開している。2017年には東京ガスと資本業務提携を結び、再生可能エネルギー事業の拡大に取り組んでいる。
○売電
・みんな電力株式会社
電力の調達先となる発電所を顧客が間接的に選べる「顔の見える電力」という小売サービスを展開している。顧客がお気に入りの発電所を選び、毎月の電気料金の一部をみんな電力経由でその電力生産者に寄付することで支援することができる。電力供給の90%以上を再生可能エネルギーが占め、料金メニューの原価構成を透明化することで、環境意識の高い顧客への訴求力を高めている。今後もブロックチェーン技術を活用した電源トラッキングサービスの開発・展開などを進めている。

・株式会社パネイル
パネイルクラウドという、電力小売りに必要なプロセスを自動化できるクラウドプラットフォームを提供している。それまで手作業が主流だった小売り業務を、AIとビッグデータを用いて自動化したことで、劇的なコスト削減に成功した。2018年4月には東京電力と共同で合弁会社「PinT」を設立し、関東エリアから全国へのサービス提供を本格化すると同時に、不動産会社向けに複数の物件での電気料金の一括支払いを実現するサービスを提供するなど、付加価値を付けたサービスにも着手している。
○環境・エネルギー業界で求められる人材
以上のように変化が激しい状況にあるエネルギー業界では、業界での経験をもつ人材だけでなく、多種多様なスキルが求められる。AIやビッグデータなどのITスキルを持つ人材、プロジェクトを動かすためのマネジメント力・コミュニケーション力に長けた人材など、多様な人材が活躍できる業界であるといえるだろう。とりわけベンチャーと呼ばれる企業群においては、企業がどのステージにあるかによって、求められる人材像が大きく変わってくる。ここでは環境・エネルギー業界において求められる人材を、企業ステージごとに紹介する。

・シードステージ
立ち上がりの段階であるシード期においては、市場に展開するためのプロダクトをつくるステージであり、エンジニアまわりの人材が求められる。特にテックサービスを提供している企業においては、プロダクト開発のために必要なスキルは基本的にテック系ベンチャーと変わらない。プログラミング技術を有して高度な開発やプロジェクトマネジメントができる人材が求められている。発電事業においては、自社開発はせず、ソーラーパネルなどすでにできた製品を海外から買い付ける企業も多い。

・アーリー・ミドルステージステージ
プロダクトが一通り完成した後、「売る」段階に移行したステージである。プロダクトを「売る」ためのセールス系の人材が必要になるが、環境・エネルギーの分野においては、行政や地方の電力会社といった企業・団体を相手に営業をかける場合も多い。そのため、大手企業や行政団体の体質を理解しており、大手企業相手の営業経験のある人材が重宝される傾向にある。一方で、多様なステークホルダーとの折衝も必要とされる場合も多い。大規模なソーラーパネルの設置にあたっては、行政はもちろん、地域住民の方々からの理解をいかにして得るかも重要なミッションとなってくる。そのため、様々な利害関係者に対して、適宜応じたコミュニケーションスタイルをとることができるような人間力が試されるのもこの業界ならではだ。

・レイターステージ
IPOに向けて管理体制の強化が重要になってくる段階である。このステージにおいては、ファイナンスや法務、HRなど管理部門のバックグラウンドがある人材が求められる。特に環境・エネルギー分野においては、例えばメガソーラーを東京ドーム10個分購入し、減価償却を10〜20年スパンで計算するなど、高度な財務戦略が重要になってくる。そのため、外資系金融などのファイナンス知識を持つ人材を集めたファイナンスプロジェクトチームを社内に抱えている企業も多い。
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