「モビリティ」業界で求められる経験とは?
業界の説明から、具体的な企業、必要な経験を解説
○モビリティサービスが求められる背景
モビリティ(mobility)とは、「モノや人の移動に関わるサービス」という意味だ。もともとは英語で「移動性・流動性」といった意味を指す言葉であったが、自動運転やドローンといった技術の発展により近年頻繁に使われるようになった。こうしたモビリティサービス発展には、どのような背景があるのだろうか。

① 高齢者の増加と人口格差
1つ目は、自家用車を運転できない高齢者など、いわゆる「交通弱者」と呼ばれる人々の増加である。高齢化が進展し、身体的に衰えた高齢者が増加。特に地方において深刻な問題となっている。地方では十分な交通手段が整備されておらず、生活するのに自家用車を必要とする場合が多い。しかしながら、その自家用車に乗れない人々が爆発的に増えているのだ。自動車検査登録情報協会の資料によると、世帯当たりの乗用車保有台数は、都市圏においては平成17年をピークに減少している一方、地方では都市圏に比べて多く、平成27年には地方が1.43台、都市圏が0.88台と、地方では引き続き自家乗用車が必要なのだ。こうした地方の生活において、乗用車を運転できないことは大きなハンデとなる。

一方、大都市では過密化と、それに伴う交通渋滞の深刻化、自動車排出ガスによる環境汚染が指摘されている。日本はパリ協定において、産業革命以前に比べて気温上昇を2℃低く抑えるという目標を掲げている。さらに、平成27年7月17日の地球温暖化対策推進本部で決定された約束草案では、日本は2030年度において、エネルギー起源CO₂を25%削減することを目標としている。これらの課題を解決する手段として、自動車の電動化やドローン配達が注目されている。これらは二酸化炭素を排出する必要がないため、CO2削減に大きく期待ができる。また、ドローン配達は空を飛ぶため、交通渋滞に悩まされることもない。普及すれば、物流量増加による交通渋滞の軽減にもつながる。

② 労働力人口の減少にともなう労働力不足
2つ目に、特に運送業界で深刻化している労働力不足の問題だ。この要因には、少子高齢化による労働力人口の減少がある。ボストンコンサルティンググループによると、2027年には物流トラックドライバーが96万人必要とされるのに対し、実際には72万人しか目処が立たないという。つまり、およそ24万人の労働力が不足すると推定されている。いわゆる「団塊の世代」が定年を迎え、労働力人口は減るのに対し、ヒト・モノの移動ニーズは依然として変わらない。人は定年後も移動するし、モノを移動させるニーズはあるからだ。新たな技術によって、こうした需給キャップを解消できるかが注目を集めている。

また、再配達などによる長時間労働も追い打ちをかけている。配送大手のクロネコヤマトでは、Amazonの利用者増加と、佐川急便の撤退により、取り扱いが急増。Amazonのサービス拡大により負担はさらに増え、再配達回数の増加も相まって、労働力不足は深刻な問題となっている。その結果、ドライバーだけでなく、仕分けを担当するアルバイトまでもが人材不足に陥っている。こうした背景が「ドライバー」という仕事へのイメージ悪化につながり、担い手不足が激化している。
○モビリティ業界の具体的企業とサービス例
モビリティ業界におけるベンチャー企業は、提供するサービスごとに大きく3つに分類される。

① ハードウェア:自動車、ドローン、車いすなど、モノや人を運ぶ機器そのものの開発・販売・流通を手掛ける企業
② ソフトウェア:AIや自動運転といった技術を駆使し、より効率的に物流サービスを届けるようにするソフトウェアの開発・提供を手掛ける企業
③ サービスプロバイダー:現状に対する課題解決策として新たなサービスを生み出し、世に提供する企業
このうちどれかだけを扱うところもあれば、複数にまたがって事業を展開するところもある。そのため、はっきりと区分しきることはできないが、それぞれについて具体的なサービス内容を見ていこう。
①ハードウェアを提供するベンチャー
・WHILL株式会社
2012年5月に設立されたベンチャー企業。「次世代パーソナルモビリティ」の普及を掲げており、次世代型車椅子「WHILL Model C」の開発を手掛けている。2015年に発売された「WHILL Model A」へのユーザーの声を反映し、分解・組み立て機能を搭載するなどしたモデル。簡単に分解・組み立てができ、重量はModel Aの116kgから52kgと大幅に削減。車のトランクにも容易に搭載でき、外出先で組み立てれば、そこでの稼働も容易だ。様々な場所に行けるようにするために、縦だけでなく横に回転する前輪「オムニホイール」を開発、小回りの利く移動を可能にした。他にも、力を入れず指先のみの簡単操作、アームの跳ね上げによる簡単昇降、自動ブレーキ、横に傾斜した道での片流れ防止など、多数の機能を搭載している。「WHILL」が普及すれば、高齢者や身体障がい者でも気軽に買い物に行けるようになる。超高齢社会となった日本の現状に適するものといえるだろう。

・株式会社ディー・エヌ・エー×ヤマト運輸株式会社
株式会社ディー・エヌ・エー×ヤマト運輸株式会社が共同で手掛ける自動運転配達サービスが「ロボネコヤマト」だ。「誰もが欲しいときに、欲しい場所で荷物を受け取れること」を目指し、自動運転社会を見据えた事業を展開している。サービスには2種類あり、オンデマンド配送サービス「ロボネコデリバリー」と買い物サービス「ロボネコストア」が存在する。「ロボネコデリバリー」では、宅急便の荷物を10分単位で配達時間と配達場所を指定して受け取れる。「ロボネコストア」では、地元の店の欲しいものが指定場所にまとめて一度に届く。2017年4月から2018年3月末まで神奈川県藤沢市で実用実験を実施、不在率はわずか0.53%(通常は20%程度)であった。2018年4月24日~2018年6月15日の期間には自動運転の配送者による受け取り実験を実施した。

・JapanTaxi株式会社
タクシー配車アプリ「JapanTaxi」を運営している。2011年に提供を開始、2018年には累計600万ダウンロードを突破した。地図から乗車場所を指定すれば簡単にタクシーを呼ぶことができる。また降車場所や決済方法を事前に設定すれば、乗車後にする手続きはほぼない。アプリには到着までの待ち時間が表示される。事前に乗る予定が分かっている場合は日時を設定して予約も可能。料金検索の効果もあり、乗車場所と降車場所を設定すると想定ルートと概算料金が検索できる。ほかにも定額利用や、ネット決済といった機能もある。2018年2月8日には、トヨタ自動車とJapanTaxiとがタクシー業界全体の効率化・活性化を目指し、タクシー事業者向けサービスの共同開発を検討することで合意。トヨタから約75億円の出資を受けた。
②ソフトウェアを提供するベンチャー
・株式会社スマートドライブ
2013年に設立されたベンチャー企業。法人向け車両管理システム「Smart Drive Fleet」を提供している。登録した車両の運行情報をすべて記録することで、事故や無駄な走行を減らすことができ、経費の削減につなげることが可能。記録したデータから、安全運転をスコアリング化、日報を自動作成するといった機能もついており、日々の業務時間を短縮するという効果もある。位置情報もリアルタイムで確認することができ、運行管理の大幅なコスト削減が期待されている。また、こうしたサービスを高齢ドライバーの運行管理として打ち出した「Smart Drive Families」も提供している。警察庁によると、平成29年上半期における交通事故において、75歳以上高齢運転者による死亡事故件数は、ほぼ横ばい傾向であるが、死亡事故全体に占める構成比は増加傾向。80歳以上高齢運転者による死亡事故は件数、構成比ともに増加傾向にあるという。「Smart Drive Families」では、登録した車両の位置を家族がリアルタイムで把握することができ、記録したデータをもとに運転の特徴を振り返ったり、家族間で共有したりすることができる。
③サービスプロバイダーのベンチャー
・Uber Technologies Inc.
2009年3月アメリカ初のベンチャー企業。2016年にスタートした「Uber Eats」は、スマートフォンでレストランの料理を注文できるサービス。既に海外では頻繁に利用されていたが、日本でもサービスを開始するようになった。特徴は、登録した一般人が配達員となることだ。Uber Eatsには多数のレストランが掲載されており、利用者は注文したい料理が見つかったら、タップしてカートに入れる。レストランが注文を受け付け、調理を完了するころ、付近のUberパートナーが二輪車、自転車などでレストランに向かい、注文品を受け取る。そして配達員が利用者のもとに向かう。アプリには配達員の名前と顔写真が表示され、配達状況をマップ上で確認できる。支払いには登録したカードを使用するため、現金は必要ない。提携レストランにとっては、配達員を新たに雇ったり、従業員に配達させたりする必要がないため、初期投資を抑えつつデリバリー事業を開始できるというメリットがある。また、Uber Eatsでは、都市や地域のニーズに合ったサービスを展開している。例えば、東京では狭い道路や路地裏があるため、自転車など小回りの利く配達方法をとっている。自分で外出するのが困難な高齢者や身体障がい者にとっても、Uber Eatsは魅力的なサービスといえる。

・テラドローン株式会社
2016年3月に設立されたベンチャー企業。2018年にドイツの調査会社Drone Indusry Insight社(DRONEII)より発表された「TOP20 Drone Service Provider 2018 Ranking」にて世界9位、日系企業唯一のランクインとなった。「空から、次の産業革命を起こす」というコンセプトの下、産業用ドローンを用いて空撮・測量及びデータ解析などを行っている。分野としては土木測量や森林測量、人体インフラ・オイル・ガス点検といった、人が立ち入ることが難しく、危険性が高い場所の空撮・測量サービスを国内外で展開している。空撮技術にも独特のものがあり、航空レーザーを用いた高精度リアルタイム3Dマッピングで、草木が生い茂る森林地帯でも地表のデータを採取することが可能。ドローン自体の販売も手掛けている。
○モビリティ業界で求められる人材
それでは、モビリティ業界で求められる人材について、上記で挙げた3分野ごとに解説する。

1、ハードウェアベンチャー
この分野の企業では、自動車・車いすなど、モノとしての機器を扱う。そのため機械・電気・情報系といった、機械関連に明るい人材が必要となる。例えば、自動車の設計となると、ボディのデザインに流体力学が欠かせない。電気自動車の開発なら、電池に詳しい工学系の人材も必要だ。こうした理工系の専門分野をもつ人材が活躍できるだろう。さらに、こうした機器は様々な人の力が合わさって作られる。そのため、技術があるだけでなく、他分野の人とも連携して仕事を進めることができるコミュニケーション力も求められる。

2、ソフトウェアベンチャー
ソフト面に携わる企業に関しても、エンジニアは重要な存在だ。機械学習やDeep Learning、AIを扱えるAI・アルゴリズムエンジニアやデータサイエンティストが求められる。こうした分野でのスキル・経験や、プログラミング言語(Python、Rなど)を使えるといった素養は大きな武器になる。またGitHub等を用いたチーム開発の経験や、サーバー、インフラサイドのエンジニアも、その他Webサービスを提供している企業同様に必要となってくる。

3、サービスプロバイダーベンチャー
この分野の企業では、新しいサービスを生み出すための事業企画や、世に広めるためのマーケター・セールスなど、ビジネス系の職種に活躍の機会が多くある。特にこの分野は未開拓な部分も多いため、最先端の情報をキャッチする知的好奇心や、わからないところでも率先して挑戦し、PDCA回せる行動力といったものも重要視される。技術系の職種では、アプリ開発からアルゴリズム開発まで幅広いエンジニアに活躍の場がある。現在地から目的地までの経路検索や、それに伴う費用・時間を探り出すためのアルゴリズムエンジニアや、Android・iOSなどのアプリエンジニアはもちろん、UI/UXに明るいデザイナーも求められる人材の一つだ。
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