地方創生ベンチャーとは?
地方創生の説明から地方創生ベンチャーの具体的な事業例、企業例から求められる人材まで解説
○地方創生ベンチャーとは
地方創生とは、国内の各地域・地方がそれぞれの特徴を活かした自立的で持続可能な社会を形づくること、魅力あふれる地方のあり方を築くことだ。平成26年にまち・ひと・しごと本部が決定した基本方針によれば、地方の活力を取り戻して人口減少を克服し、50年後も1億人程度の人口を維持することを目標としている。そのために、
・若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現
・東京一極集中に歯止めをかけること
・地域の特性に即した地域課題の解決
以上3点を基本的な視点として定めている。この基本目標の実現のため、以下の項目について検討を進め、改革を実行に移すとしている。
① 地方への新しいひとの流れをつくる
② 地方にしごとを作り、安心して働けるようにする
③ 若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる
④ 時代にあった地域をつくり、安心な暮らしを守る
⑤ 地域と地域を連携する
地方が直面する課題のなかに雇用創出、観光振興などのビジネスチャンスを見出し、地域の持続可能な発展・開発を目指す企業が、地方創生ベンチャーだといえるだろう。
○地方都市「消滅」の危機
2014年、日本創生会議の人口減少問題検討分科会は、2040年までに全国の約1800市町村のうち約半数が消滅する恐れがあると発表した。2010年の国勢調査をもとにした試算では、2040年に20~39歳の女性人口が半減する自治体が「消滅可能性都市」とみなされている。日本創生会議座長・増田寛也氏は著書『地方消滅―東京一極集中が招く人口減少』の中で、この約半数の市町村の消滅を「地方消滅」と呼んでいる。
人口減少は以下の三段階の過程を経て進行する。

① 老年人口の増加と生産年齢・年少人口減少
② 老年人口維持または微減と生産年齢・年少人口減少
③ 老年人口減少と生産年齢・年少人口減少
そしてこれ以降は、本格的な人口減少が始まると予測されている。大都市や中核都市は第一段階にあるが、地方ではすでに第二段階や第三段階に差し掛かっている地域もある。

地方の人口減少の大きな要因は、首都圏への人口集中・流入である。大企業や中央省庁は東京に集中しており、コンビニやスーパーも多く、鉄道網などの移動手段にも不自由しない。また、東京は地方に比べて圧倒的に雇用・就労の機会が多い。地方では、公共投資削減や工場の海外移転により雇用が縮小している。その結果、医療・介護分野が地方の雇用を支えている一方で、老年人口の減少にあわせて、雇用も減少していく。これでは、若者が首都圏に流出する可能性が高いと言わざるを得ない。このように「地方消滅」の危機は着実に迫っている。
○地方創生の必要性と要件
政府はその必要性から「まち・ひと・しごと創生基本方針2017」を発表し、「ローカル・アベノミクス」として地方創生版・三本の矢による自治体支援の方針を固めた。

・情報支援の矢:地域経済に関わるビッグデータをもとにした地域経済分析システム(RESAS)の運用
・人材支援の矢:地方創生コンシェルジュの設置や地方自治体への人材派遣
・財政支援の矢:「地方創生推進交付金」(29年度:1000億円)、「地方創生拠点整備交付金」(28年度:900億円)、「まち・ひと・しごと創生事業費」(29年度:1兆円)、「地方創生応援税制」

こうした施策を推進することで、地方創生への政策的バックアップを手厚くした。他にも、地方での雇用創出や中央官庁のサテライトオフィスなども施策として挙げられている。しかし、政策的なアプローチだけで現状は改善しているとは言い難い。
雇用を創出しても地方での生活に魅力がなければ人々は移住しない。平成27年の国勢調査では「どんな地域に移住したいか」という項目について、第2位がテレビやインターネットなどの情報を通じて魅力を感じている地域(24.5%)、第3位が過去に観光などで滞在したことがある地域(21.8%)となっている(第1位は自分や配偶者の出身地で33.1%)。
では、首都圏の住民にとって地方の「魅力」とは何だろうか。もちろん、ある程度の雇用機会や賃金、安定した暮らしは大きな魅力だ。しかし、それだけでは数ある自治体の中からその地域を選ぶ要因とはなりにくい。移住する以上、将来もその共同体のなかで暮らしていくことになる。であれば、人々は先に述べた要素だけでなく、都会にはない居心地の良さや多様性に富んだ人間関係など、数値で表しにくい要素も考慮するのではないだろうか。こうした地方の「魅力」に加え、ICT技術や地域資源、地方の人材を活かすことで、様々な分野から住みやすさ・産みやすさ・育てやすさの三拍子そろった地域社会の形成が望まれている。こうした地域社会に向け、地方創生ベンチャー企業は情熱を持って取り組み、持続可能な形で実現しようとしている。
○地方創生ベンチャーの具体的な企業・事例
それでは、地方創生ベンチャーの具体的な取り組みについて見ていこう。地方創生の分野としては
①観光振興・地域PR
②クラウドファンディング
③就労・副業支援
④遊休資産の活用
⑤農林水産イノベーション
⑥地方創生人材の獲得・育成
⑦小売、Webマーケティング支援
などが挙げられる。それぞれ順番に見ていこう。

①観光振興、地域PR
・株式会社アソビュー
2011年に設立されたベンチャー企業。地域の稼ぐ力を引き出す取り組みを担う観光振興組織「DMO(Destination Marketing/Management Organization)」や自治体のHPを通じて宿や特産品といった地域コンテンツの管理・販売を行うシステム「エリアゲート」をJTBと共同で開発した。各種データの収集・分析など科学的アプローチにも対応し、販売手数料収入により地域が自主財源を確保するための仕組みを提供。その他にも遊び・体験のプラットフォーム「asoview!」を提供している。

②クラウドファンディング
・READYFOR株式会社
2014年に設立された東大発Fintechベンチャー。「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」をミッションに日本初・国内最大のクラウドファンディングサービス「Readyfor」を運営、その中で地方との提携も行っている。2018年4月25日より、福井県が行う「ふるさと納税による新事業創出支援事業」のサポートを行うことに決定した。4月下旬~6月下旬に事業者を募集、7月上旬に支援対象を審査・決定し、事業ごとに目標額を定めて7月中旬以降にクラウドファンディング「Readyfor ふるさと納税」で全国から寄附を募る運びだ。2011年のサービス開始から8000件以上のプロジェクトを掲載、42万人から60億円の資金を集め、幅広い年齢層に利用されている。

③就労・副業支援
・ランサーズ株式会社
2008年に設立されたベンチャー企業。千葉県南房総市に協力、就労・副業支援を行った。千葉県南房総市は10年で11%の人口減少や高い高齢化率など、大きな課題を抱えている。課題解決のため、南房総市は子育て世代や女性が輝く働き方モデルづくりを開始した。ランサーズは2015年からクラウドソーシング講座を開始、2年目には地域ディレクター1名と主婦数名でチーム立ち上げに成功し、月に10万の収入を得るチームメンバーも出てきた。ランサーズは情報発信や啓蒙活動での周知による人材発掘、人材育成と仕事機会の創出などを行って地域での女性や高齢者の就業機会の拡充を図っている。

④遊休資産の活用
・株式会社スペースマーケット
2014年に設立されたベンチャー企業。空きスペースと利用者をマッチングするサービス「スペースマーケット」を提供している。空きスペースは1時間単位で借りることができ、古民家での会議や結婚式、カフェなど様々な用途で利用することができる。このような地域の遊休資産活用に加え、地域の特集ページを作成して地域全体のプロモーションを行うことによりイベントの広報や集客を支援し、人の流れを創出している。

⑤農林水産イノベーション
・アグリホールディングス株式会社
2014年に設立された農業ベンチャー企業。シンガポールの子会社「LOGICO PTE LTD」を通じて、日本の食材に付与される共通ポイントサービスアプリ「JAPAN POINT」を運営している。消費者は日本の食材を扱う飲食店や小売店で買い物するとポイントを取得でき、日本の農産品や旅行などと交換できる仕組みだ。これにより効果的に日本食材の認知度を高め、日本からの輸出を増やすことを目指しており、地方の食材・食文化の普及と輸出拡大に貢献することにもつながる。

・ポケットマルシェ
2015年設立のベンチャー企業。農家・漁師といった食材の生産者から直接食材を購入できるアプリ「ポケットマルシェ」を運営している。食材の購入だけでなく、アプリを通じて生産者と直接やりとりをすることができ、それを通じておいしい食べ方や食べた感想などをメッセージ上で共有することができる。出店者は生産者のみで、中間業者はなし。同社は新規就農者の支援や、就農後の経営支援も行っている。

⑥地方創生人材の獲得・育成
・株式会社ビズリーチ
2007年に設立された人材ベンチャー企業。国内最大級の即戦力人材データベース「ビズリーチ」を運営。「働き方」や「働き方に関する価値観」の変革のために、「雇用流動化」と「生産性向上」の側面からサービスを展開している。県や自治体へのコア人材の還流・地方企業の即戦力獲得・官民のサポート及びコンサルティングなどを行う。地方から未来の働き方を探すWebメディア「BIZREACH REGIONAL」も運営。事業内容や経営者のビジョン、そこで働く基幹人材からのメッセージなど各地域の企業の魅力を余すところなく伝えるコンテンツを提供している。事業例としては鹿児島県長島町の自治体専門職の人材確保を支援、10名以上の人材を確保した。

⑦小売、Webマーケティング
・ソウルドアウト
2009年に設立されたベンチャー企業。中小企業・ベンチャー向けにwebマーケティング支援を行う。ほかにもIT化支援やHR分野での支援も行っている。特に地方の中小企業に対する支援に力を入れており、地方企業の活性化を通しての地方創生を実現しようとしている。全国20か所以上に営業所があり、対面を中心とした地域密着型の支援に力を入れている。
○地方創生ベンチャーに求められる人材
地方創生ベンチャーは、上記に挙げた通り様々な企業が存在しており、業界も多岐にわたる。求められる人材は会社の事業内容・ビジネスモデルに強く依存するため、一概には言えないが、おおむねの傾向として以下のような人材は広く活躍の場が用意されているだろう。

1.高度なビジネススキルを持つ人材
地方創生ベンチャーにおいて重要なスキルは、ビジネススキームを組む能力である。持続可能的に収益を上げつつ、いかに地方の活性化につなげることができるか、ビジネスマンとしての力量が問われる。それもさることながら、実際には、実質的な売上をあげる力が必要となる。特に創業間もなく、サービスがローンチしてすぐの段階では、営業力が非常に重要となる。製品やサービスが売れる保証もなく、実績もなければブランドもないという中で、PDCAを回しながら売上をあげられる力、すなわち「モノを売る力」に長けている人が重宝される。営業やマーケティングの経験、特に製品初期段階での経験のある人は、とりわけ活躍の機会があるだろう。

2、多様なプレイヤーとのコミュニケーションができる人材
地方創生においては、自社の力だけでできることは限られている。地域の観光協会や市町村役場など、様々なプレイヤーと協力しあってこそ、成功することができる。こうした立場の異なる人々を巻き込み、疎通し、連携していくためのコミュニケーション能力は、事業を進めるうえで必要不可欠な能力だ。こうした人材も地方創生ベンチャーにおいて求められる人材の一つである。

3.泥臭いこともいとわない実行力
「地方創生」と聞くと、華やかなイメージのある一方で、泥臭い仕事も多く存在する。先に挙げた営業や地域住民との折衝など、実際に足を動かす場面も多い。特に地域の人々との協業のためには、伝統を守りつつ懐に入ることのできる人柄も重要視される。こうした実行力・人格面における素養も重要なスキルの一つだ。華々しい成功の陰で泥臭く努力できる人材もまた、事業を進める上でなくてはならない存在だ。
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