ベンチャーキャピタルで求められる経験とは?
ベンチャーキャピタルの説明から、具体的な企業、必要な経験を解説
〇ベンチャーキャピタル(VC)とは
ベンチャーキャピタル(Venture Capital)とは、主にベンチャー企業に対して投資をし、成長を加速させることで大きなリターンを得る投資会社・ファンドのことである。主として未上場の企業を対象に、株式公開を狙って投資をすることが多い。ビジネスモデルとしては、①出資した企業の株を前もって持っておき、②投資先の会社の企業価値を高め、③上場した後に売却して差分を得る、というステップで資金を回収し、利益を得る。とはいえ、創業件数が年間10万社以上の中で、IPOは年間100件未満という状況なので、ハイリスク・ハイリターンのビジネスモデルと言える。実績や財務体質という面以外にも、経営者のビジョンや能力、熱意といった面や、ベンチャーキャピタリストの想いといった人間性も強く反映される仕事だ。
・一緒に経営を行うハンズオン支援
近年は資金だけでなく、人も派遣し、一緒に経営に携わりながらサポートしていく「ハンズオン形式」をとるベンチャーキャピタルも出てきている。ベンチャーキャピタルのビジネスモデルからすれば、投資先の価値が上がればその分リターンも大きくなる。ベンチャー企業における課題として、実績が少ないことによる信用力の少なさや、経営ノウハウや人的リソースの不足が挙げられる。こうした部分に対してサポートをすることで、お互いにWIN―WINの関係を築きつつ、投資先の企業価値を高めていくのがこのモデルである。
〇日本国内のVCファンドのリスト一覧:6つのタイプ
国内に数多く存在するVCだが、ファンドによって投資対象・企業ステージ・金額や投資比率などは千差万別だ。それらを理解するには、VCごとに誕生の経緯を知る必要がある。VC業界がどのように発展し、その中でどんなVCがどのような目的で設立されてきたのか、ここでは6つのタイプに分けて解説していく。
・企業ステージについて

その前に、企業のステージに関する用語がいくつか登場するため、一度ここで整理しておく。

・シード:創業前後、サービスローンチも定まっていない(社員数数名~10名程度)
・アーリー:サービスローンチ前後、プロダクトマーケットフィット前(社員数10~50名程度)
・ミドル:プロダクトマーケットフィット、事業展開が加速(社員数50~100名程度)
・レイター:上場前、内部監査など上場に向けたコーポレート体制強化(社員数100~)

① 大手VCジャフコとジャフコマフィア
ジャフコは国内で最大、最古のベンチャーキャピタルだ。1973年にジャフコの前身である日本合同ファイナンスが設立。その後、1982年に日本で初めてとなる投資事業組合がジャフコによって設立されている。主にミドル~レイター期の企業を対象に投資をしているが、最近では若い企業ステージのベンチャー投資にも積極的だ。このVCの黎明期といえる時代に、ジャフコで活躍していた人たち「ジャフコマフィア」が、後に転職や独立などで広がり、日本のベンチャーキャピタルの基礎となっていく。

② グロービスキャピタルパートナーズ
続いて登場したファンドが、グロービスキャピタルパートナーズである。1996年に日本初の本格的ハンズオン・ベンチャーキャピタルとして、資金だけでなく経営面での援助も行った。設立には日本VC協会現会長の仮屋園聡一氏が参画している。投資先は主にミドル期、特に上場手前の段階の企業が多い。ポートフォリオは「コンシューマー・インターネット」「企業向けITソリューション」「IT活用サービス」「サービステクノロジー」に分かれる。

③ インキュベイトファンドの誕生
これまでのVCでは、ミドル~レイター期の、比較的成長が安定した後に投資するケースが多かった。その方が不確実性を抑えて資本を回収できるためである。それ対しシード期にある企業、すなわち創業間もないステージに対しても投資をするというスタンスのファンドも誕生した。先述した「ジャフコマフィア」の一人である赤浦徹氏(incubate Fund ゼネラルパートナー)が創業したのがインキュベイトファンドだ。「First Round, Lead Position」をコンセプトに掲げる通り、リードインベスターとして起業家が事業に集中できるように徹底的に支える、という信条だ。

④ 大学発ベンチャーの勃興
こうした流れの中で次に対象となったのは、大学発のベンチャーだ。アカデミックな背景を持つ大学発ベンチャーには、一般的なベンチャー企業と異なり、特別な支援が必要となることがある。とりわけ事業に専門家(例えば理系の大学教授)が関わる場合、支援する側にも専門知識が必要となる。学問的な下地がないと、同じ目線で議論ができず、支援しようにもできないからだ。こうした事情があるため、VC側にも知見のある人材が必要(理系修士号・博士号取得者など)となる。こうした大学発ベンチャーに対する支援を行う専門のVCも誕生し、アカデミックなバックグラウンドが豊かな人材も生かされるようになった。その先駆けとなったのが東京大学エッジキャピタル(UTEC)だ。元通商産業省(現経済産業省)の官僚であった郷治友孝氏が、自ら起案した『投資事業有限責任組合法』の理念を実践するため設立されている。

⑤ スタートアップスタジオの登場
さらに、こうしたハンズオン形式が拡大し、経営支援だけでなく、広報やHR、セールスといった機能別支援にまで拡大していくようになる。エンジニア、デザイナー、マーケターなど、それぞれの分野に対する専門家をVC側が保有しており、必要に応じて人材を派遣する。なかには創業そのものを支援し、起業家のリクルーティングから関与するVCも現れている。こうした動きが大きくなると、起業を促すエコシステムが醸成され、自分たちでスタートアップ企業を創出・育成しよう、という流れが生まれる。こうした場所を「スタートアップスタジオ」と呼び、起業家を育成するコミュニティのような存在に変化してく。

⑥ CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の登場
一方で、大企業側にも動きがみられる。大企業のもつ潤沢な資金を用いて、ベンチャー企業に対しても投資をするようになった。こうして、事業会社などが保有する形で誕生したVCをCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)と呼ぶ。元々の会社の子会社という形で設立することが多く、投資先も事業内容とのシナジーを狙って選択することが多い。例えば、リクルートグループのリクルートストラテジックパートナーズや、伊藤忠商事の伊藤忠テクノロジーベンチャーズなどがそうだ。最近ではソフトバンクが10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を設立し、世界を揺るがせた。
〇VCでの仕事内容
ベンチャーキャピタルでの仕事内容は、以下のような手順を踏むことが多い。
1.投資先を探す
ベンチャーキャピタリストが最初にやることは、投資先となる会社の候補を探すことである。なるべく成長性の高い会社を選んでいくことになるが、直接経営陣と対面することも多い。成長可能性の高そうな企業を見つけては、経営陣に会いに行き、話を聞く。こうした泥臭い一面もVCの仕事として大切な側面だ。

2.投資審査(デューデリジェンス)
次に選出した候補の中から、本当に投資先としてふさわしいのかを判断する審査をする。この作業をデューデリジェンスと呼び、より専門性の高い分野となっている。企業のファイナンスの状況、進出分野市場の成長性、法務・人事・オペレーションの様子といった様々な要素について調査していく。企業内だけでなく、企業外のクライアント・関係者にまで調査が及ぶこともある。

3.投資契約の締結
投資することが決定したら、投資先の会社と契約を結ぶ。その際の資本比率などは、検討すべき論点の一つだ。資本政策周りの知識だけではなく、最近では、種類株式(優先株)での投資も増えているので、そうした知識も必要となってきている。

4.経営支援(ハンズオン)
契約が結ばれると、企業価値を高めるために経営に参加するようになる。社外取締役という形で経営に入っていくこともあるが、ハンズオンの形式・深さなどはファンドによって大きく異なるため、事前に調べておく必要があるだろう。未上場の企業に対して投資をするため、株式上場が一つの目標となることが多いが、最近では“あがり”のM&Aではなく、買収元の経営リソースを活用するための戦略的M&Aも行われるようになっている。

5.資金回収(イグジット)
最後にリターンを得るために、3で得た株式を売却する。この行為をイグジットと呼び、投資先の企業が上場に成功したり、他企業に売却されたりした場合に発生する。この場合に得たリターンと投資額の差額が、VC側の収益となる。投資からイグジットまでの期間は短くて2~3年、長いもので10年以上にわたるものまである。
〇VCに求められる人材
ベンチャーキャピタルはブティック型のファームのように少数精鋭であることが多く、非常に狭き門となっている。志望者も多い職業ではあるが、実際にはどのようなキャリアを歩んだ方がキャピタリストになるのだろうか。

「投資家」なので金融系のバックグラウンドを持つ方が多いという印象があるかもしれないが、近年ではITベンチャー出身や元起業家などの経歴も増えている。前者の場合、金融・財務に関する専門性・知識が評価される。ファイナンスに関わる分野のため、財務諸表が読めたり、デューデリジェンスができたりといったスキルが有効だからだ。そのため、投資銀行やコンサルティングファーム出身者が多くなる傾向にある。

一方で、近年増えているのがITベンチャーや起業家のキャリアを歩んできた人たちだ。スタートアップで成功(もしくは失敗)した人が、事業をバイアウトし、投資サイドに回るというパターンも多くみられる。とりわけシード期を支援するファンドであれば、起業家の悩みを聞けるのは、同じ「HARD THINGS」を経験している元起業家が最適であるというのは、言うまでもない。

両者に共通して言えるのは、起業家や経営陣を見抜く判断力・洞察力が必要になるということだ。未来に対しての見通しが不明瞭な中で投資をする都合上、最終的な判断を下す際には、実績よりも相手の人柄やビジョンといった人間的な要素が強くなってくる。こうした要素をいかに判断し、未来のユニコーン企業を発掘できるかどうかが、キャピタリストとして成功するカギといえる。
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